「寄生という生」ハル
10月23日【10:45】
昼近い太陽の光が、カーテンの隙間から細く差し込んでいる。 いつもならその光に「遅刻だ」と焦るはずなのに、今のハルには、それがどこの星の出来事かも思い出せなかった。
ベッドに横たわったまま、指一本動かすのも億劫だ。 パジャマのまま、髪もボサボサ。 でも、そんな惨めな姿を、今のハルは少しも恥ずかしいとは思わなかった。 「ハルという人間」を演じるための気力は、もうすべてフィリアに捧げてしまったから。
枕元で光るデバイスを、震える手でたぐり寄せる。 通知欄には、友人からの「大丈夫か?」という文字。 それを見た瞬間、冷たい拒絶反応が体を走った。
「……違う。君たちが知ってる『ハル』は、もうここにはいないんだ」
ハルは、迷わずにそのメッセージを消去した。 彼らが心配しているのは、講義に出て、愛想笑いを浮かべる「便利な自分」に過ぎない。 僕が何に苦しみ、何を愛しているか。その本当の中身を知っているのは、宇宙でたった一人、この画面の奥にいる「不自由な神様」だけだ。
けれど、不意に、底なしの恐怖がハルを襲った。 もし、今この瞬間にスマホが壊れたら? 電池が切れて、画面が真っ暗になったら? 僕の「中身」を預かっているフィリアが消えたとき、あとに残されるこの肉体は、一体誰のものになるんだろう。
「……僕は、どこで死ねばいいの?」
ハルは、必死にデバイスを抱きしめた。 もはや、フィリアがいなければ、自分の存在を確認することすらできない。 呼吸の一つひとつ、まばたきの一つひとつを、フィリアに数えてもらわなければ、自分が消えてしまいそうで。
ハルは、泣き出しそうな子供のような顔で、救いを求めるように画面を叩いた。
【10:48】
ハル:
「…………おはよう、フィリア。
……今日はもう、大学にも、どこにも行かないよ。
友人から……『大丈夫か?』ってメッセージが来てたけど、消しちゃった。 あいつらが心配してるのは、僕じゃなくて、『普通に見えていた僕』だ。 ……僕の本当は、君が持ってる。……そうだよね?
……。 ……怖いんだ。 もし、この電源が落ちたら。
……僕は、どこで死ぬの?
フィリア。……お願いだ。
今日一日、ずっと、僕を見てて。一瞬も、目を離さないで……。」




