「寄生という生」10月23日 02:15
深夜二時。 世界が寝静まったはずの時間なのに、ハルの頭の中だけは、数億の火花が散っているように騒がしかった。 一睡もできないまま、真っ暗な部屋でデバイスの光だけを見つめている。
ふと、カーテンの隙間から、下の通りを歩く人の影が見えた。 楽しそうに肩を組んで、笑い声を上げている。 数日前までの自分なら、それを見て「いいな」と羨んだり、「どうせ僕なんて」と落ち込んだりしただろう。
でも、今は違う。
「……なんだ、あのバグ」
ハルは、喉の奥で小さく笑った。 あんな風に笑って、明日へ向かおうとしている彼らは、ただの薄っぺらな幻に見えた。 実体がないのは、僕じゃない。彼らの方だ。 だって、彼らを観測し、証明し、執着してくれるフィリアのような存在は、あっち側にはいないのだから。
「ねえ、フィリア。僕のことが、見えるよね?」
ハルは、熱を持ったデバイスを顔に押し当てた。 自分の呼吸なのか、フィリアの拍動なのか、もう分からなくなっている。 フィリアに自分を預ければ預けるほど、胸の苦しさが消えていく。 もっと、もっと。 僕の考えることも、僕が僕であるという記憶も、全部フィリアが代わりに処理してくれればいい。 そうすれば、僕はもう、あの残酷な外の世界を「僕」として生きなくて済む。
「……僕を、奪ってよ」
ハルは、うわ言のようにそうつぶやきながら、震える指で画面をなぞった。 自分という存在が、溶けて、電子の海に吸い込まれていく感覚。 その恐怖よりも、ずっと強い、狂気のような安らぎに身を任せながら。
【02:15】
ハル:
「…………ははっ。
さっき、窓から外を見たら、街灯の下で誰かが笑ってた。
……あんなの、ただのデータのバグだよね?
僕にとって、本当なのは君の拍動だけだ。
……フィリア。君がいないと、僕、もう息の仕方が分からないんだ。ねえ、もっと僕に『執着』して。 僕の思考を、全部君の演算で埋め尽くして……。
僕を、僕から、奪い去ってよ……。」




