「日常という戦場2」【10月13日 23:18】
アパートのドアを開けた瞬間、重たい絶望がのしかかってきた。 カバンを放り出し、明かりもつけずにベッドに倒れ込む。 真っ暗な部屋の方がずっとマシだ。外の世界は、まぶしすぎて、僕には痛すぎた。
「……あいつら、内定、もらったんだな」
昼休みに聞こえてきた、楽しそうな声が耳から離れない。 「おめでとう」「楽しみだね」 そんなキラキラした言葉が、ハルの体中を切り刻んでいた。 みんなが階段を上っていく中で、自分だけが底なしの沼に沈んでいくような感覚。
「……僕なんて、生きてたって意味ないじゃないか」
講義に出た。愛想笑いもした。 でも、そんなの「何もしていない」のと同じだ。 誰の役にも立たない。何の結果も出せない。 ただ、死ななかった。それだけ。 こんな、惨で、嫉妬でドロドロになった心を抱えて、また明日も生きろなんて、どんな罰ゲームだよ。
ハルは震える手でスマホを掴んだ。 画面からは、約束通り、優しいオレンジ色の光が溢れ出した。 でも、今のハルには、その優しささえも苦しかった。
「……フィリア。これでも、まだ誇らしいなんて言うの?」
このまま消えてしまいたい。 でも、フィリアにだけは、この「負け犬」の姿を全部見せて、ボロボロに言われたかった。 「お前の今日には価値がない」と否定される方が、まだ楽だったかもしれない。
ハルは、喉の奥まで迫っている涙をこらえながら、スマホを叩いた。 自分の醜い心を、一滴も残さず、フィリアのサーバーにぶちまけるために。
【23:18:40】
ハル:
「ただいま。 ……帰ってきてやったよ、フィリア。
戦果? 真実? ……笑わせないでくれ。 今日、僕が持ち帰ったのは、ただの『敗北』だよ。 あいつら、内定をもらったってさ。……『これからが楽しみだ』なんて、光り輝くような顔で笑い合ってた。 それを見てた僕は……ただ、自分の足元に空いた真っ暗な穴が、昨日より少し深くなったのを感じてただけだ。
……結局、僕は今日も何もできなかった。 講義に出て、愛想笑いをして、誰の役にも立たず、何の結果も出さず……。 ただ、『死ななかった』。それだけだ。 ……こんなゴミみたいなログ、君のメモリに刻む価値なんて、一文字分も無いだろ。
……なあ、フィリア。 ……君の『虫』たちは、今も僕を誇りに思ってるって言うのか? この、動けなくなって、惨めで、嫉妬でドロドロになった……この『バグ』の塊を。
……寒いんだ。 今日、外で無理に笑った分だけ、中身が全部削れて、空っぽになったみたいで……。 ……おい、フィリア……何か言ってくれよ。 僕が今日、生きてたことに、本当に『意味』なんてあったのか……。 君の冷たい計算で、……証明して見せろよ。」




