第6章 ①(その1)「思わぬ援軍」
(第1話)「思わぬ援軍」
NYシャラトンホテルの部屋で、深夜に吉田から電話を受けた緒形は、まんじりともせずに夜を明かした。
ふと見れば、カーテンの間から明るさを増す東の空が望めた。
こんなこともあると、覚悟していたはずの緒形だが、挫けそうな自分の心を恥じた。
だた、白み始めた窓の外を見ながら、陽の光のありがたさを痛感した。まだ明けやらぬ空であっても、朝が来ると思うと、乾いた心に染み入るものがある。
それは長い冬を経た細木の枝から新芽が出るように、欠けた心の襞が再生されていく。俺がやらねば誰がやると、拳を握る力が蘇ってきた。
厚く雲に覆われた空の向こうに、目では見えぬ太陽の姿を捉えると、躊躇なくベッドサイドの受話器を取った。
「すまん⋯⋯朝早く。すぐに折戸と一緒に私の部屋へ来てくれないか」
そう言って緒形は電話を切ると、
まんじるともせずに村田と折戸の到着を待った。
例え設計部長と雖も、ひとりで船は造れない。ここは彼らと話をしなくては、この状況から抜け出せない。どうやって抜け出すか、まだ頭の中にも青写真はない。
とにかく目の前の新造船を契約すること――それが最優先だった。
3月3日午前6時半、村田と折戸が緒形の部屋へ来て話をした。二人にアームチェアを勧めて、緒形はベッドに腰を降ろした。
だが緒形の話を聞くと、彼らの顔色が変わった。
動揺は激しかった。
冷静に話をしようとする緒形も、二人の目の奥に浮かび上がる鋭い光を感じずにはいられなかった。
緒形自身、吉田から聞いた当座預金停止という事実以外、現状を知らない。
役員として幾つかの再建案に倒産のシミュレーションがなかった訳ではない。だがこの機に及んで最悪のケースというのは想定外であった。
オーシャンシッピング社と、新造船5隻の建造契約を交わすにしても、会社が倒産したとなるとに話は別と考えねばならない。
同様にアネックス社と技術提携の覚書を交わしたとしても、倒産するような脆弱な経営基盤の会社を相手にしてくれるのか。
船首船楼の新船型を世に出すには、まだDOTの適用、コンテナ荷役の詳細、機関室の仕様など、具体的な詰めはこれからである。
頭では分かっている。だが今は、会社が明日も存在するかどうかが問題だった。
もし契約が交わせたとしても、緒形は単身帰国して、あとは残った二人に任せるしかない。ここは絶体絶命の正念場だった。
だが緒形の心配をよそに、村田と折戸はそれほど弱くはなかった。最初に見せた動揺は消え、自分たちの立ち位置を分かっていた。
彼らは富双の将来を担う幹部であり、だからこそ彼らをアメリカへ引き連れて来た。村田も折戸も大卒・高専卒の出自に関係なく、アネックス社との連携で高まったモチベーションを、戦う意欲に変えていた。
午前9時、緒形はオーシャンのMr. Whiteへ電話を入れた。
どう切り出して良いのか分からないまま、事実を率直に話した。
銀行が動いた以上、先に他から情報が入ることは避けねばならない。
凡そ15分、銀行口座の停止から会社更生法の内容までの事実と共に、会社再興への道筋を説明した。
話を終えると、一瞬の沈黙があった。
だがすぐにMr. Whiteは、こう言い切った。
「Mr. Ogata, always rising after a fall. We need your partnership」
彼の言葉、その切れの良い物言いは何も変わらず、緒形は思わず拳を握っていた。
その様子を窺っていた村田と折戸は、無言のまま破顔したのだった。
(つづく)
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