第02話 技能士って?
「この度、ヒジカタ様の担当を賜わりました宮廷魔術師のシトリーと申します」
同郷の5人とは別に【技能士】なんて過去に例の無いクラスを持つオレの為に、わざわざ鑑定スキルが使える魔法研究者の女性がやって来て、オレを実験室みたいな部屋まで案内してくれた。
実はこの魔術師がオレたち6人をこの異世界へと召喚した術者本人らしいのだが、1人だけ意味不明の職種だったオレの能力について詳細な調査を行い、あの性格が悪そうな王女様に報告しなければならないそうだ。
(宮廷魔術師とは言っても、この人も悲しい宮仕えなんだな)
これはオレの推測だが、明らかに他の勇者たちとは違うクラスを持つオレに対して、その重要度を計りかねた王女や貴族たちが万一にも【技能士】が有能なクラスであった場合に備えて、それまでの間はせいぜいオレのご機嫌を損ねないようにと考えた措置だろう。
診察台に寝かされて身体能力に関する何かの数値を測られたり、訓練場のような場所で剣術や槍術、そして斧術に弓術など、様々なカリキュラムをこなしてみたが、一向に強力な戦闘能力が発現する事は無く、事ここに至って漸く判定が下されたのは、オレの能力が魔王討伐に対して何も貢献しないであろうとの予測結果だった。
弓なら何とかなるかと思っていたが、リアルな弓は思った以上に扱いが難しかった。せめてクロスボウでもあれば、狩猟ゲームで良く使っていた経験から同じように扱えると思ったのだが、クロスボウの使い方はどちらかと言えば弓より銃に近い。
ゲームの弓であれば、攻撃ボタンを押し続ける事で弦を引いた溜めの状態を維持できたから、自分の腕の力だけであの固い弦を引き絞ったまま、そのうえ狙いまでつけなければならないリアルの弓は、より一層難しく感じてしまった。
またクロスボウについては、この異世界にもあるみたいだが連射するのが難しく、軍では制式採用されていないとのことだった。
(クロスボウがあれば狩猟ゲームと同じ感覚で扱えるかも知れないが、矢の装填に手間が掛かるのであれば、ゲームと全く同じという訳にはいかないか)
「ヒジカタ様は、体力以外のステータスは一般人と同じくらいの能力しかお持ちでは無いようですね。あと敢えて申し上げるなら筋力と持久力が少し高い程度でしょうか?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
それから城内で働く使用人たちに、ある噂が広がり始めた。
「おい聞いたか、あの噂を」
「ああ、知ってるぞ。あの6人の異世界勇者のうち1人だけクズが混じってたって話だろ?」
「儀式で一度に多くの異世界人を召喚したせいで、1人だけハズレを引いてしまったのではないか?」
「ではどうするのだ、伝承では選ばれし勇者は6つの属性を持つメンバーだったはず。あのクズが無属性だと言うのが本当なら、あと1のメンバーは何処に居ると言うのだ?」
「そこは心配せずとも良い、確かに選ばれし勇者のは6人だと予言にはあるがその詳細は不明じゃし、特に問題は無かろう」
「ではどうするのだ? 先に訓練を始めた5人はもう間もなく旅立てる準備が整うと言うのに、あのクズ1人の準備の為に更に待てとでも言うのか? 今こうしている間にも魔王軍の侵攻によって民たちの被害は広がっているのだぞ?」
「まぁ聞け、6人のうち5人の勇者については歴代最高の者たちである事は間違い無いのじゃから、そこにクズが1人だけ紛れ込んでいたとしても肉壁くらいにはなるじゃろう」
こうして勇者パーティとして相応しい訓練を終えた5人と非戦闘員1人の合計6人が、魔王軍が蔓延る敵軍の中を突っ切り、魔王その人を暗殺しに行くと言う未曾有の斬首作戦が開始される。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「僕が光の勇者で、このパーティのリーダーを務めるカズヤです」
そう言って自己紹介をしてくれたのは高校生の彼で、剣聖の女子高生は都内で有名な強豪校の生徒だと自己紹介された。
あと、女子高生の彼女は全国大会二連覇を成し遂げた、伝説級のJKだと言う事だったし、賢者となった男子大学生は国内最高学府に在籍しており、召喚士のアホっぽい女子大生はeポーツの世界では有名なプレイヤーだったと聞く。
そう言えば、オレがまだ意識を回復していない時に声を掛けてくれた若い女性は、来年の春から大学を卒業して看護師として働く予定だったらしく、こちらの異世界でも人々を癒やせる聖女になれた事を喜んでいるようだった。
それに比べて今のオレはと言えば、自分の職種である【技能士】についてある程度の確証を得ていたが、それを彼らの前で説明したいとは到底思えない気分だった。
あの時は、召喚士の女子大生がこの世界をネトゲか何かと勘違いしていたのが原因で、オレが様々なスキルを使用可能なエキスパート職だと誤解されたみたいたが、オレが働いていた工事現場で【技能士】と言えば『作業員』とか『職人』と呼ばれる人たちの事を指していた。
だからオレ自身は生産職で、戦いには向かない職種だと考えている。
このような説明だと一般の方には余り馴染みが薄くてスルーされがちだが、自分の手と身体を使って作業する職種のうち、特定の業種について一定以上の能力があると認められた者を【技能者】や【技能士】と呼んで、それら作業員を纏めて管理する者は【技術者】とか【技術士】と呼ばれていた。
中には管理業務をしながら同時に技能者として作業する者も居るし、大工や左官職人など一人前に成るまで多くの年数を必要とする職種の中には、自分達の工程を自身で把握して管理が出来る職長たちも多く存在する。
このような労働実態がある事で、建設業に従事した経験の無い方々に【技能士】と言っても、それが何を指すのか判らないのが一般的な見解だろう。
しかし、ここで一つの疑問が思い浮かぶ。
オレは建築工事の監督職員で施工管理を主たる業務として長く働いていたが、職人や作業員としての経験はほぼ無いと言っても良い。(勿論現場での作業を手伝った事はあるが)それなのにオレが異世界転移によって送られた職種が【技能士】だったのは何故なのだろうか?
もしこれが【建築士】とか【施工管理技士】などであれば、召喚されたあの日にピンときたはずだったのに、【技能士】なんて紛らわしい職種を授かったせいで、その後の運命が大きく間違ってしまった気がしてならない。
もしかしてオレは、本来なら勇者たち5人とは全く別の理由、例えば彼らのように魔王との戦いではなく、街の工事とか堤防の補強、それ以外にこの世界で重要な役割を持つ遺跡の崩壊を防ぐなど、建設業に関わる何かがあったのではないだろうか?
そしてこの異世界では、オレが居た元の世界と比べて建築技術が大きく遅れているせいで『施工管理』といった概念が生まれていない時代だと思われるので、こっちの異世界に居る建設工事に携わる者と言う意味で【技能士】と言う職種が与えられたのだとするなら、胸の奥につかえていた何かがストンと落ちる気がした。
その証拠に【聖女】となった女子大生は医療従事希望者であったし、【剣聖】の女子高生は全国大会でも有名な剣道の選手で、【賢者】は偏差値70以上の大学に在籍する秀才だった。あとアホっぽい【召喚士】の女子大生はああ見えて、ネトゲでは有名なプレイヤーで電脳世界の中でも同じ【召喚士】だったと聞いた。
そこまでヒントが揃えば、オレの【技能士】が何を指すのかなんて簡単に答えが出るだろう。
オレはこれから自分の職種について、誰にも内緒でその能力を解明し育てていく必要がある。もしオレが戦闘で役に立たないと知られれば、どんな扱いをされるか判らないからな。




