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イセカン ~~オレの建設スキルが異世界を蹂躙するまで?!~~  作者: としょいいん


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プロローグ

 土方蔵人ひじかた・くらひとがこの異世界へやって来たのは、彼が35歳の時だった。


 共働き家庭で産まれ育った彼が、父と同じ建設業を就職先として選んだ事について特にこれと言った理由は無いが、子供の頃から父が面白おかしく話す建設現場の出来事を聞いて育った過去の影響により、彼の友人たちの様に建設業へ対する忌避感が無かったと言うのが主な理由だったかも知れない。


 彼の同級生たちが一様に忌避する建設会社を、自分の就職先として考えてる事を数少ない友人たちに話すと、大抵の場合は疑問の声が上がった。


「なぜ今時そんな3Kな仕事を選ぶ必要があるんだ?」


「あの業界は学生時代に勉強をしてこなかったヤツらの受け皿みたいなものだから、真面目に努力を続けて来た我々が行くような場所じゃない」


「私、建設業界の方とお付き合いするのはちょっと……」


 子供の頃から聞いて育った父の話では、それこそ普通の人たちが大半を占めているはずなのだが、父の話に登場する建設現場で働く者たちは誰もが皆個性的で人間味があり、親しみを感じる事も多いが、中にはやはりどうしようも無い者たちも数多く居た。


 そんな建設業を取り巻く社会環境の中において、各自の都合や欲望が渦巻く建設現場とは人間社会の縮図の様にも見えて、それらの話は聞いていて飽きないものばかりだった。


 中には会社の資産を書類上で離婚した奥さん名義の銀行口座へと予め移してから計画倒産をする社長や、友人を騙して小切手の裏書きをさせておいて相手の資産を奪い取ったり、同じ会社内での足の引張り合いや派閥闘争などについても、父は子供の彼に理解が出来る言葉を選んで面白く話してくれた。


 それ以外にも社内恋愛や不倫関係の末路だとか、他にはネットの書き込みによる誹謗中傷や現場へ来る協力会社の作業員を含めた不祥事等の他に、そいつの怠慢から生じた致命的とも言える笑えないミスなど、話のネタはそれこそ星の数より多いのではないかと思えるくらいだった。


 それなりに勉強も出来て人並みの頭を持っていると自負してはいたが、これと言って成りたい職業や夢など持ち合わせていなかった彼が、幼少の頃から父に聞いて育った建設業界を身近な場所として考え、それを自身の進路と考えるようになったのは、ある意味自然な成り行きだったのかも知れない。


 彼が22歳で地方の国立大学を無事卒業してから、建築士や施工管理技士などの資格を取得しながら仕事の内容も理解しつつ、予算の組み方や安全管理のノウハウなどについても一通りの知識と実績を積み重ねて来た実績が評価されて、昨今では十億円以上の規模を誇る大型物件の現場代理人や監理技術者をも任されるようになっていた。


 その日も共同企業体(JV)の主任技術者の一人として、担当現場の最終チェックを終えてから、消灯と戸締まりの確認を行っていた彼が、外部足場のシートのヒモが切れて今にも飛んで行きそうになってるのに気付くと、ヒラヒラと風に踊ってる養生シートを張り直しに向かう。


 外れかかっていたシートの端が運良く足場材の隙間に引っかかっていたので、彼は二段手摺の間から上半身を乗り出して、今にも飛んで行きそうな状態のメッシュシートを引き上げに掛かる。


 今回の現場も所謂『役所物件』と呼ばれる公共工事の現場なので、メッシュシートと一概に言っても難燃一級のシートはそれなりに重く、強風で煽られながら無理な姿勢で引き上げるには少しだけ力が要った。


「あとちょい、もう少しコイツを引き上げてヒモで固定できれば──」


 建物の陰になり薄暗い足場の上で手にしたシートを確認すると、どう見てもシートのハトメの数よりヒモの本数が少ない。これは誰かが一時的に外した後にきちんと復旧しなかったのが原因でヒモが何処かへ飛ばされたのだろう。ちなみに周りを確認してみたが、何処にもそれっぽいヒモは見当たらない。


 明日は朝から本社主催の安全パトロールが予定されており、このシートを応急的に残ったヒモだけ括りつけても、他のシートの様にピンと張られていないので、そこだけ目立ってしまい巡回時に指摘をされたら、また手直しをする事になる。


 どうせ同じ手間を掛けて直すのなら、最初からちゃんとした状態に復旧した方が良いと考えた彼は、引き上げたシートを足場の手摺に付いてたヒモで仮に固定しておき、足りない分のヒモを取りに戻ろうとした時だった。


 『悪い時には悪い事が重なる』とはよく言うが、運悪くこのタイミングで足場が大きく揺れ始めた。


(いや、揺れてるのは足場じゃなく地面か?!)


 その青白い光は大地に描かれた幾何学模様と見た事もない文字のようなマークの羅列で、それらが時計方向に回転を始めると地面の揺れが徐々に大きくなって行く。


「このタイミングで地震かよっ!!」


 彼は昔から運が悪いのか事故や災害に巻き込まれた事もあったが、それでも大きな怪我もせず生き残ってきたのではあるが、さすがにこの高さから墜落すれば生き残れる可能性など皆無だろう。


 外部足場に設置されている狭い階段を素早く駆け降りるが、急に揺れが大きくなり咄嗟に足場へしがみつく事になる。流石にこれだけ大きな揺れだと、もうここから一歩も動けそうにない。


 何とかこのまま地震が治まるまで耐え切る事さえできれば、生命だけは助かりそうだと考えていたのだが、ここで更なる悲劇が彼の身を襲う。


──ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガンッ! ガガガガガガガガ────


「次は何だ?!」


 彼の注意が金属の破断音がする上方へと向けられる。


 その音は外部足場を建物に緊結している『足場繋ぎ』と呼ばれる仮設部材が、繰り返す振動のせいで次々と金属疲労を起こして破断する音で、それは建築マンを自負する彼から見ても正に悪夢としか言いようがない状況だった。


(これはマズイ……なんてもんじゃないぞ!!)


 足場が左右に大きく揺れる度に足場繋ぎが次々と破断して、その直後から更に揺れ幅が大きくなっていく。このままだと、あと数回の揺れで自分が居る段も崩壊してしまうだろう。


 もう既に何段か上の足場まで崩壊が始まっており、クランプやシートなどの部材がバラバラと分解を始めて頭上から降って来て時折彼のヘルメットや身体に当たるのだが、今はその痛みに耐えながら支柱に掴まっておかなければ次に落ちるのは彼自身だろう。


 先ほどまで目の前に張ってあったはずのメッシュシートは既に何処かへ飛散してしまい、ここで彼がその手を離せば、次の瞬間に彼の人生が終わってしまうのは容易に想像できる。


 しかし、いくら彼が必死に支柱に掴まっていたとしても、人生の終わりはやってくる。


 上の方から崩壊が始まった足場の構造が、今正に彼がしがみついている段にまで及び足場が砕け散ったからだ。一瞬の無重力を体験してから彼の身体は一気に重力加速していく。


(クソ、こんな事なら有休を使い切っておけば良かった! 貯金も手つかずのままだし、今まで仕事ばっかりで何も楽しい思い出が浮かんで来ないのは何でだ! あと35歳にもなるのに結婚もせず、孫の顔も見せないまま先に逝く親不孝を赦してくれ!)


「ぅおおおおおおおおおおお!!!」

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