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夏の魔法 ~俺と彼女と、すれ違った世界~(改訂版)  作者: 於田縫紀
第7章 予想外の行事

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第39話 目的は達成された

 会議は十一時に終了した。

「それじゃ早速水着を選んでこないと。お兄も一緒に行く?」

「遠慮する」

 ここは断固として拒否する。遙香一人ならまだしも、その友達と一緒に水着買い出しなんてごめんだ。疲れるし恥ずかしいし、いい事は何も無い。

「それじゃお兄、急ぐからまたね」

 遙香は同学年の女子達とばたばた外へ出て行く。十一時五十五分のバスで出るつもりなのだろう。他の皆さんもそんな感じだ。

 何せここ魔法研究会も、この学校の例に漏れず女子ばかり。男子は俺を含めて六人しかいない。

 それにしても、わざわざ水着を新調する必要があるのだろうか。どうせ新調しても見るのはいつもの面子だけ。男子六名女子十九名に引率者一名、合計二十六名だ。正直あまり意味が無いような気がしないでもない。

 そりゃ遙香の水着が楽しみじゃない訳ではない。でも別に遙香は遙香で元々可愛い。水着うんぬんの問題じゃないと思うのだ。

 まあそれはそれ、これはこれ。俺は厚生棟一階で弁当でも買って、寮に帰るか。そう思った時だった。

「川崎は残って、ちょっとこっち手伝って」

 須崎さんにそんな事を言われる。

「何かあるのか?」

「合宿実行委員、男子も一人は必要でしょ」

 そう言われてもな。

「男子がわざわざ必要な作業なんて、特にないだろ。部屋割もどうせ男子全員で一室だろうしさ」

「つべこべ言わない」

「孝昭、ほなよろしく」

 強引に実行委員とやらに引っ張り込まれる俺を片目に、男子筆頭である五年の石動先輩がささっと逃げる。何か毎回こうだような、そう感じてふと気づいた。

 これは俺ではなく向こうの世界の俺の思考だ、きっと。こっちの俺は毎回という程、こういった場があった筈はないから。

 どうやら向こうの世界とこっちの世界、俺自身についても大分混ざっている様だ。

 実行委員と称して残っているのは須崎さんと俺の他、研究会長の柳川先輩、茜先輩、そして塩津さん。何というか予想通りの面子だ。

 この面子になら、もう言ってしまってもいいだろう。

「だいたいこの合宿を企んだの、須崎さんだろ。夏休み最初の週は空けとけ、って言っていた奴」

「ばれたか。まあそうだけれどね」

「何を企んでいる」

「悪いことじゃないよ。それに合宿の話をしたら、皆ノリノリで協力してくれたしね」

「あ、でも私、川崎の関係の話、聞いてない」

「いいのいいの、彩は」

 うーむ。

「さて、とりあえず午前中に調理当番と部屋割り、あと日程詳細を決めましょう。会議室三十六を開設したから各自開いて下さい」

 俺達はタブレットを取り出し、学内SNS上に咲良先輩が解説した会議室に接続する。

「川崎君は学年順男女順に部屋割りのたたき台。知佳さんはバスの座席、彩さんは食事当番関係、茜さんは日程。私は学校への提出書類を作るから」

 アンケート結果や研究階名簿、バスの座席等がUPされた画面で作業開始する。


 合宿関係の作業が終わった夕方。いつもの緑先輩の研究室。

「それにしても茜先輩、何を企んでいるんですか」

 本日も会食兼情報交換でここに来ている。

「企んでなんていないさ。ただ研究会の可愛い後輩のお願いを聞いて、各種手配をしただけだ」

「私も少し此処を離れる予定」

 緑先輩、何処へ行くのだろう。

「緑先輩、実家へ帰るんですか?」

「さてな」

 茜先輩も知っているようだ。でもプライベートに関わる事かもしれないし、今はこの辺で聞くのをやめておこう。

「ところで孝昭、この前の魔人の襲撃の件、ニュースに出たのを読んだか?」

「ええ」

 あの襲撃の件については、ネットでいくつかのニュースが出ていた。

「自衛隊が対魔獣、対魔人装備を作っているなんて、元の世界では考えられないニュースですよね」

「あれは西暦二〇二〇年代の、現代兵器理論を応用したものだ。迎撃を防ぐ乱数軌道攻撃、同じく分裂飽和攻撃、貫通力を高める自己鍛造弾、打ちっぱなし攻撃を可能にする様々な誘導方法。魔人を倒したのはそういった、魔人のいない世界から持ち込んだハイテク攻撃装置だ。厳密にはそれに更に魔法効果を加えたものだがな。これらの兵器は魔人だけでなく魔王にもおそらく通用するだろう。そう判断されたようだ」

 確かに先輩の言ったような事も書かれていた。でもそれがどうかしたんだろうか。

 そう思いかけて、そして遅ればせながら気づいた。

「世界がこうなった目的は達成された。そういう訳ですか」

「ああ。魔王に対抗するための技術開発は成功した。一方で二十一世紀の自衛隊も、魔法戦闘なんて方法論を手に入れたからな。日本だけでなく他の各国でもおそらく、同様の成果がもたらされている頃だろう」

 そうなると結論は……

「また世界は離れていき、元の状態に戻る。そういう事ですか」

「時期はわからない」

 これは緑先輩だ。いつそうなるかはわからないという事か。

 でもそうなることは、肯定している訳だよな。この言葉は。

「ここで過ごした記憶も消えるんですか」

「記憶は残るが、記録は消えるだろう。今は予想でしか言えないけれどな。確かなるのは、いつかこの世界はまた元に戻ること。それだけだ」

 やはり全ては、元に戻ってしまうようだ。

 遙香がいなかった、元の世界に。 


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