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夏の魔法 ~俺と彼女と、すれ違った世界~(改訂版)  作者: 於田縫紀
第7章 予想外の行事

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第35話 須崎さんの話

 寮の部屋は無事だった。ガラスもひびすら入っていない。

 とりあえずパソコンを立ち上げ、学内ネットに繋ぐ。

 今回の戦闘についてのアンケートが来ていた。部屋の損傷から怪我、学用品等の損害等についてだ。

 機械的に打ち込みながら思う。茜先輩、大丈夫だろうかと。

 先輩からは、まだ返事がきていない。俺達と違って学外に出ていたから、すぐには返信できないかもしれない。そうはわかっていても気になる。

 学内掲示板には、今回の戦闘についての速報が出ていた。真っ先に被害者のところを確認。自衛隊に重傷者二名、軽傷者十五名、その他軽傷者七名。生徒や教官等は被害者無しだ。

 つまり茜先輩は大丈夫。少し安心して、そして他の情報を確認する。

 今回の敵は魔人一体、魔物が各種あわせて三百二十四頭。そして魔人はS2A級とある。

 Sが魔人、魔王を意味し、S2は最上位の魔人。

 ちなみにS1が魔王でS0が大魔王。Aは戦闘力と魔力の合計で、これの上にはSがあるだけ。

 つまり今回の魔人は最上位魔人で戦闘力A。下位の魔王だと戦闘力Bなんて事もあるので相当に強い。

 よくこの規模の自衛隊と、学校で対処出来たなと思う。本来なら地域紛争になってもおかしくないレベルだ。

 それだけの規模にならなかった理由も書いてある。

 戦闘があった学校がある区域は二つの世界が混じっていて、世界線が他地域とかなり異なっている。だから戦闘のような事案を、学校付近以外にまたがって展開出来ないらしい。

 都合のいい話だなと思って、気がついた。単に都合がいいのではなく、意図的に都合を良くした可能性に。

 元々この学校を含む件は、魔王出現に対する軍事協力からはじまった事案。なら戦場を拡大させないという研究をやっている可能性は充分にある。

 この先、ここはどうなるのだろうか。魔王を倒すまではこの体制が続くのだろうか。魔王を倒した後はどうなるのだろうか。

 今のまま続くとは、俺には思えない。人によっては、ここと外出時の通貨すら違うという状態のまま続くとは。

 世界は混じっていくのだろうか、離れていくのだろうか。離れていくとしたら、いずれ遙香に会えなくなるのだろうか。

 スマホが振動した。茜先輩かな。見てみるとメッセージが二通来ている。

 一通は茜先輩。無事だという連絡だ。

 そしてもう一通は、何故か須崎さん。

『話をしたいけれど公園区画に来れる?』

 そんなメッセージだ。

 公園区画とは研究棟前の。緑地風になっている場所。ラウンジは大破したし厚生棟はそれ以外も被害が多そうだから、顔を合わせられる場所はその辺しかないだろう。

 しかし須崎さんが何の用だろう。他に用事はないので、OKと返答はしておく。

 すぐに返信があった。

『なら今からお願い』

 何だろう。須崎さんが俺に用件というのは、今ひとつピンとこない。

 でも一応服を着替えて、部屋を出る。

 被害がほぼ無く暇つぶしの買い出し連中であふれている厚生棟一階を通り、事務屋が忙しそうにしている本部棟を抜け、研究棟手前から外に出れば、すぐ公園区画。

 暑い最中、屋外に好き好んでいる奴はそういない。だから須崎さんはすぐ見つかった。

「あれ、須崎さん、一人?」

 今日は塩津さん無しのようだ。てっきりいつもと同じように、一緒だと思っていたのだけれど。

「今日は彩がいない方がいい話なの。でもここ、暑すぎるわね。川に移動しましょ」

 確かに暑い。盆地というか谷間だから、風が動かないのだ。朝の天気予報でも、秩父の最高気温は関東では最高レベルだったりする。

 自衛隊車両が行き交っている道路を渡って川へ。

 ここは先に発電所の取水口があるので、堰を作って池のように水を溜めている。何回かに渡った魔獣の侵攻でも被害に遭っていないから、そこそこ落ち着いて綺麗な風景だ。

 川沿いの日陰になるちょうどいい石に腰を下ろす。 すこしだけ涼しい風が吹いてきた。ついでに魔法で座っている石の温度を少し下げる。 これでかなり過ごしやすくなったかな。

「ありがとう。どうもこういった細かい温度の調整は得意じゃないから」

「それで何の用だ?」

 須崎さんとは同じクラスで同じ魔法研究会だけれど、あまり絡む事はない。須崎さんとペアの塩津さんとは、何かにつけ一緒になるけれど。

「川崎はさ、彩の事をどう思う?」

 彩とは塩津さんの名前だ。でも、どういう意味だろう。

「クラスメイトで、同じ魔法研究会だけれど」

 確かに魔力も近いし絡む事は多いけれど、特に何かあっただろうか。

「彩、ああ見えても結構男子に人気あるのよ。顔だって割と綺麗目だし可愛いし、真面目で努力家だし。ちょっとどんくさいところもあるけれど」

「それはわかる気がする」

 確かに塩津さんははもてるタイプかもしれない。この学校は女子ばかりだけれど、その中でもかなり可愛い方ではあるし。

「それで川崎は、どう思う?」

「どう思うって、確かに塩津さんはモテるタイプかもしれないなと思うけれど」

「川崎自身はどう思うか聞いているの」

「そう言われても……」

 うーん。どう答えればいいのだろうか。

「話が進まないから言っちゃうけれどね。彩、川崎の事が好きなのよ。それで川崎が彩の事をどう思っているかを知りたいの。彩の事をどう考えているか。今は駄目でもチャンスがあるか。彩は私が言うのも何だけれど、いい子だしね。だから出来れば両思いになってくれるといいなと思って」

 ここははっきり言っておいた方がいいだろう。

「でも俺には遙香がいるだろ。それは塩津さんも須崎さんも知っている筈だけれど」

「でも遙香ちゃんは孝昭の妹だよね。妹と仲がいいのはいいけれど、恋人というのとは違うんじゃない」

 そう言えば説明していなかったかもしれない。今更ではあるけれど。

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