第30話 原因
「そう言えば、某国で魔王が復活しそうだからその枠組みで何かしているって、ニュースで出ていた気がする。でもこれって関係あるのかな」
遙香がそんな事を言う。
「そんなのニュースに出ていたか?」
俺は知らない。一応ニュース等は朝にスマホで確認するのだけれど。
「今朝のニュースで出ていたよ。ネットでも」
遙香がスマホを取り出して、操作をする。
「ほら、これ」
『「ファイブアイズ+3」と呼ばれる米国や英国など五カ国と日本、ドイツ、フランスの三カ国は、昨今の侵略的政策から孤立を深めている●国の……』
遥香のスマホの画面には、そんな記事が表示されていた。
「どれどれ」
俺達三人の中央にスマホを置いて、皆で読んでみる。
記事を大雑把にまとめると、
① 昨今から侵略的政策により、孤立しつつある某国が、
② 折からの新型ウィルス感染症と異常気象で深刻な被害に遭い、
③ ②による不況と孤立により、諸産業のバブルがはじけ、
④ 国民が貧困化し、死者も多数出ていることから、
⑤ 政権中枢が魔王化する事を危惧したファイブアイズ+3諸国が
⑥ 昨年末から合同作戦をとっていることが判明した。
という内容だ。
「ちょっと待った。これってもろ、この件の原因じゃないのか。二十一世紀側で起きた件とリンクしているだろう、これは」
茜先輩が言うとおりだ。
ここに出てくる国々は、二十一世紀側で魔法が使えるようになる現象が発見された国と同じ。その頃から計画を進めていたのなら、魔法が使えるようになった時期も納得出来る。
「これで筋書きは、ほぼわかった。魔王を倒す為、他の世界を近づけて情報を入手できるようにした訳だ。この学校が出来たのもその計画の一環で、研究を共有できる世界を作る為。他に影響が及ばないよう、わざわざ人里離れた場所に全く同じような施設を作って、更に魔獣等を使って意図的に世界が重なり合う場所にしたのだろう」
「同意」
緑先輩が、茜先輩の言った事を肯定した。
つまりここが出来てこの状態になっている理由は、今言ったとおりという訳か。
「しかし何でこんなニュース、見逃していたんだ私は。ちょっと待ってくれ。私のでも出してみる」
茜先輩は、学校支給のタブレットを取り出して操作を始める。
「でもこんな風にニュースになるような事が原因なら、緑先輩の魔法でもっと早くわかるんじゃ……」
緑先輩は俺の疑問に対して、首を横に振った。
「私は二十一世紀側の人間。そっちの記憶を持っていない。だから教えられない限り、水瓶座時代世界からの情報は入らない」
「くそっ、何で出ないんだ。タブレットだけじゃない。私のスマホでも出ない。同じアドレスを指定しているのに」
インターネットの性質からして、本来そんな事はあり得ない。偽装DNSサーバ等に引っかかっていなければ単なるアドレスの打ち間違いの筈。
でも茜先輩が、その事を知らない訳はない。
「おそらく水瓶座時代の世界でなければ取れない情報。混じっている此処では、二十一世紀世界に対応する対象がいない者しか、その情報を取れない。私達が知る事が出来たのは遙香のおかげ」
「同じ場所にいるのに、そんな事があるの?」
遙香の疑問に、緑先輩は頷いた。
「同じ場所にいても、受け取る情報は各自違う。同じものを見ても、各自違う受け取り方をするように。今は世界が混じっているから、余計複雑」
この辺は以前、先輩達二人が話す形で説明してくれた。その結論もおぼえている。
「信じている限り共有できる、でしたっけ。緑先輩の結論は」
「ああ。だから遙香が出した情報を、私達も読むことが出来るし感じる事が出来る」
「そしてそれが出来る限り、私達はわかり合えるという訳だ、同じ土俵で」
緑先輩と茜先輩はそれぞれそう言って、そして大きく頷いた。
「つまり黒幕は、水瓶座時代のファイブアイズ+3諸国って訳か」
緑先輩は頷く。
「今の情報のおかげで、読めるようになった」
「よくあるお話で、魔王を倒すために勇者を召喚するなんてのがあるけれどさ。つまりはあれと同じか。勇者ではなく国を召喚したという形で」
「厳密には各国の一部地域のみ。入手しようとしたのは、魔王を倒す事が出来る兵器とその考え方」
茜先輩と緑先輩の話で、大分状況が掴めてきた。
「つまり水瓶座時代の、多国間による陰謀というか作戦な訳ですか」
「然り。ただ水瓶座時代側だけでなく、二十一世紀側も協力している。この学校を設立したのも、自衛隊を密かに駐留させていたのも、その為」
これでほぼ状況が見えた感じだ。
「でも魔王って、前にも確か出てきて倒されているでしょ。わざわざ他の世界から知識を得ようとしなくても倒せるんじゃないのかな」
確かにこっちの世界風に言えば十九世紀以降、魔王という存在は世界上に何度か出現している。最近では三十年前くらいに出現し、倒された筈だ。
「確かに以前の魔王は、平和維持軍の精鋭魔法部隊で倒せた。だがそれは魔法研究の格差があったからだ。今回の某国については、先進国に劣らない魔法研究水準まで持ってきている。更に贄となった人民の数も多い。魔人もかなりの数生まれる事だろう。今のままでは、倒すにも局地的な紛争では済まなくなるおそれがある」
向こうの世界の魔王とは、万人単位の死と引き換えに魔法的進化した人間だ。
通常人が死んだ場合、死の際に遊離した魔力は、恨み等を持つ人間に取り憑く形で移動する。これがせいぜい数十人程度の場合は、対象の人間が『身体が重いな』程度で済んでしまう。
しかしこれが数百人以上の恨み・魔力になると、対象の人間に変化が訪れる。爪が鋭く尖る、耳の上端が尖る等の軽微な変化から徐々に全身に至る変化まで。これが人間の魔人化と呼ばれる現象だ。
更にこれが万人規模以上となると、身体が著しく強化され、魔力が通常人の数百倍以上に達するばかりか、魔物や魔獣を思いのままに操る能力を得てしまう。
これが魔王だ。
向こうの世界では、魔王は伝説の存在ではない。歴史上の戦争や大量虐殺事案等では、たいてい発生していると思って間違いない。
しかし魔王は生贄か、信者による信仰を必要とする。生贄の魔力や、信仰によって集まった魔力で、存在を維持するとともに力を振るうのだ。
国民全てを信徒とした一神教の神として君臨すれば、ある程度は魔力を集められるかもしれない。実際向こうの世界における古代の王等は、そんな存在も多かったとされている。
だが現代では、魔王はそういった一神教の神的存在になりきれない場合が多い。何せラジオもあればテレビもある。ネットが通じる携帯電話も、今は貧困国まで普及済みだ。
生贄や信者を確保出来ず、魔力が足りない場合。魔力の確保の為、敵対する勢力へと戦争行為を仕掛ける事になる。
「第三期世界大戦になる前に魔王討伐戦か」
水瓶座時代では第一次世界大戦、第二次世界大戦では無く第一期世界大戦、第二期世界大戦と呼ぶ。戦争の原因も経過も微妙にこっちの世界と違うのだが、結果はほぼ同じだ。
しかしそんな背景があったとは……
俺がそんな事を思った時だ。
「さしあたって私達に関係するのは、次の襲撃」
そう言えばそうだった。つい大きくなりすぎた話に、考えが行ってしまっていた。




