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夏の魔法 ~俺と彼女と、すれ違った世界~(改訂版)  作者: 於田縫紀
第4章 変化した世界

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第23話 調査実施

 七月五日金曜日の朝。 

「悪いな、今日は十一時五十五分のバスで出かけるから」

「もう、お兄が外へ行くって前もって言ってくれたら、一緒に行ったのに」

「ならまた今度、テスト明けにでも時間を作るからさ」

 そう言ってディパックを右肩にひっかけ、階段へと急ぐ。

 時計の表示は十一時四十五分。間に合うとは思うが念のためだ。

 本館前で待っていたスクールバスには、何とか空席が残っていた。

 元々朝八時の便、同じく八時三十分の便、十時二十分の便は混むけれど、以降はそれほど混まない。

 ただこの時間はバス一台で続行は無い。だから混むと悲惨な事になる。最悪乗り切れないという事にもなりかねない。

 発車したバスは、幅ぎりぎりの道を右へ左へと走る。座っていないと揺れまくって酷い目にあうわけだ。

 まともな道に出るまで、これが延々十分近く続く。これは多分、以前と変わらない。

 そんなこんなでバス二十分後、僅か数分で接続する電車へ。電車は東急のお下がりで、二十一世紀日本と変わりなかった。

 でも向こうの世界も電車やバス、飛行機といった交通機関は同様に存在している。だから必ずしも変わっていないとは判定できない。

 ただ向こうでは、電車が架線で電気を受け取るタイプだっただろうか。第三軌条で電気を取るタイプでなかっただろうか。

 そこまで細かい部分は、正直おぼえていない。その辺で向こうの世界の記憶が、変わってしまっている可能性がある。

 秩父駅には定刻通り到着。予め下調べをしておいたネットカフェと漫画喫茶が融合したような店まで、歩いて五分ちょっと。

 これは元々二十一世紀日本にあったチェーン店だ。こういう店に来たのは初めてだけれど、ネットだけでなくカラオケとかダーツ、ビリヤードなんかも出来る模様。

 これなら遙香を連れてきてもよかったかもしれない。調べ物をしている時は漫画を読んでいて貰えばいいし、調べ物が終わったら二人でカラオケやゲームをして遊べるし。

 でも向こうの世界の遙香を、ここに連れてきても大丈夫だろうか。連れてきたら、ここの世界が変わるのだろうか。それとも向こうの世界のこの場所に着くのだろうか。

 とりあえず俺は、ネットが使用可能なリクライニングシートの席へ座る。

 さて、調べてみるか。まずはわかりやすいところで自衛隊の駐屯状況から。

 学校の奥にあるのは陸上自衛隊秩父分屯地で、確か防衛施設庁の魔法装備研究所支所もあった筈だ。

 地図にも自衛隊のマークがあり、陸上自衛隊秩父分屯地と記載があった筈。

 しかしここのネットでは『陸上自衛隊秩父分屯地』で検索しても何も出てこない。防衛施設庁の魔法装備研究所なんて施設も出てこない。

 どうやら此処のネットは、学校で検索したのと違う結果が出るようだ。

 一方、東京大学附属中等学校で検索すると、うちの学校と中野にある昔からの附属の二校が出てくる。

 つまり二十一世紀の日本ではあるけれど、一部に他の世界の記憶があり、また魔法も使える状態。要は俺が此処へ来る直前の地元の状態と同じだ。少なくとも秩父市のネットカフェで検索した限りは。

 更に言うと、魔獣騒ぎの情報も入っていない。学校では一応、新聞社等のネットニュースには載ったと出ていたのだけれど。

 理解した。それほど遠くない秩父市街地と学校付近でも、既に世界が違っている。違っている事を俺が認識出来ると。

 さて、次はこちらの世界、つまり俺が元々いた世界で、あの学校はどう出来たかについて調べてみよう。

 以前調べた時は秘密事項が多くて、ほとんど情報が出てこなかった。でも今は、情報公開された新しい情報が入っているかもしれない。

 まずは俺達の学校のWebページへ。学校で見るものとここで見るものは、やはり内容が異なる。

 向こうは創立後五十年以上経っているとあった。しかしこっちでは出来たのが今年六月。つまり俺の記憶と同じだ。

 だが出来るまでの経緯が、俺の記憶と違っている。俺の記憶では魔法を使える人が出始めたのは今年の三月。しかしこの記事では昨年となっている。

 このWebページが間違っていないか、ニュース記事の検索で裏付けを取る。『魔法』という単語で検索した結果、該当する内容で一番早い記事が昨年の三月。やはり一年、早まっている。

 どうやらこっちの世界の現実も、少しずつ変わっているようだ。変化の具合は学校とは違うけれども。

 一方で、学校が出来た背景については、大した情報は探し出せなかった。

 大学の学部等の新設なら、文部科学省のWebページにも載るだろう。しかし附属中等学校の開設では、せいぜい大学のページに出るくらいだ。

 しかも設立について、美辞麗句はあふれているけれど、具体的にどう決まったかについては全然書かれていない。強いて言えば検索で国立大学法人法施行規則が出てきた結果、うちの学校の開設が決まった年月日が出てきたくらいだ。ちなみに今年の六月だから、何の参考にもならない。

 あとは他に何か参考になる事は無いか。三時間パックで申し込んだので、残り時間はあと二十分弱。

 思いつく単語を打ち込んでは検索するが、ヒット出来ず。残り時間五分で諦めて、パソコンをシャットダウンして会計で精算。

 つまり現実は、学校と秩父市中心部で違う事。秩父市中心部で調べる限り、こちらの現実も少し変わってきている事。

 わかった結果はそれだけだった。

 これなら学校で、遙香に勉強を教えていた方が良かったかな。そんな事を思いながら俺は駅へと歩き始める。

 茜先輩の方はどうだっただろうか。何か面白い情報を入手できただろうか。


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