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夏の魔法 ~俺と彼女と、すれ違った世界~(改訂版)  作者: 於田縫紀
第3章 変化する世界

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第21話 変化の観測

 寮に戻って、朝用に買ったけれど食べなかった弁当を机に置いて、パソコンを起動。食べながらこの学校について、ネット経由でわかる事を調べようと思う。

 俺の記憶とどれくらい違う物になっているか。この事態を引き起こした原因の手がかりがあるか。

 学校の記録は、完全に書き換えられていた。遙香が言った、俺にしてみれば向こうの世界のこの学校の記録に。

 設立は今から五十年程前。六月から寮と校舎の建て替えの為、仮校舎である現在地へ移動。なお旧校舎も近くにあるが、この場所よりもう少し町寄りだ。

 自衛隊については、二十一世紀の方の学校にはどういう状態で常駐していたかはわからない。しかし今のネット上の記述では、この校舎より更に山奥側に共同研究施設があって、ある程度の規模で駐屯している事もわかった。

 厳密には駐屯ではなく分屯らしい。秩父分屯地とネットに記載されている。

 そう言えばこのインターネットは、魔法世界の方でも使えたのだろうか。記憶を思い出してみたがはっきりしない。

 似たものはあったと思う。でもパソコンやタブレット端末を使っていたかどうかは、正直自信が無い。

 その辺は二十一世紀日本が混じっているのだろうか。今の俺には判断がつかない。

 判断がつかないという事は、俺の記憶も変更されているという事だ。どうやら記憶も世界が近づくにつれ、変化しているようだ。

 なら世界の変化を調べるには、どうすればいいのだろう。

 現状をノートに書いておくというのは、有効だとは思えない。ノートの記述も、世界が変わるとともに変化する可能性がある。

 またこの変化が起きている範囲を調べる方法も、思いつかない。そもそも魔法が使えるようになったのは、全世界的なものだっただろうか。そうではなかった気がするのだ。思い出せないけれど。

 しかし今、ここではその事を確かめる事は出来ない。ここで見る限り、変化した世界しか認識できない気がする。

 ならここから別の場所へ出かけてみれば、どうだろうか。

 今日は時間的にもう無理だ。まだお昼過ぎだが、ここから街は遠い。最寄りの街である秩父まで、バス二十分と電車三十分。これには待ち時間を含まない。

 しかも次のバスは午後三時。行って帰るだけで夜だ。先輩達との会食に間に合わない。

 行くなら明日。明日、遙香との勉強会を少し早く切り上げ、十一時五十五分のバスに乗る。そうすれば夕食さえ何とかすれば、かなり遠くまで行ける筈だ。

 何なら秩父の街だけでもいい。向こうでネットカフェでも見つけてネット検索すれば、ここと違う結果になる可能性があるだろう。

 ただ印字して持って帰っても、資料になるとは限らない。世界の変化とともに、印字内容すら変わる可能性があるから。

 その辺を夕方、会食で先輩達と相談してみよう。そう思ってふと気づいた。

 緑先輩の魔法は予知だ。実際にはそれ以外にも知識系の魔法を持っているらしい事を、かつて聞いている。

 ひょっとしたら緑先輩なら、世界がどう変化したか知っているかもしれない。

 この先どうなっていくかについても。何故そうなったかについても。

 なら今からやるべき事は……

 ① 明日、街へ出る計画を立てる

 ② 緑先輩に聞くべき事をまとめる

だろう。

 なお俺も遙香と同じくまもなく期末テストがあるけれど、特に勉強をする予定は無い。元々俺は、テスト勉強をしない派だから。

 テストとは、わからない場所を認識するためにやるものだ。だからテスト後にわからなかった場所を復習する方が、正しいし効率的。テスト前に勉強をするよりも、ずっと。

 だからまずは簡単な方、つまり明日の予定から。まずはバスの時刻と電車の時刻の確認から。

 俺はブラウザを立ち上げ、秩父鉄道の時刻表を呼び出す……


 夕方。今日は得々満腹弁当という、ミニハンバーグと唐揚げとミニオムレツとメンチカツ、コロッケが入った弁当を買って、緑先輩の研究室へ。

 世界が変わったせいで、緑先輩の研究室が無くなっていたらどうしよう。茜先輩からのメッセージが変わっていなかったし大丈夫だよな。

 そう思いつつ、名札が出ていない扉をノックする。

「どうぞ」

 返ってきた声が茜先輩の声で一安心。中も以前と変わりない。紅茶の香りがして、茜先輩と翠先輩が弁当を広げて待っている。

 予定時刻の五分前なのに、相変わらず茜先輩の方が俺より早い。まさか常駐している訳じゃないよな。

 俺が席に着いたところで、茜先輩が宣言する。

「それじゃ食べるか」

 いちおう小さくいただきますと言ってから、弁当の蓋を開けたところで。

「ところで孝昭、世界が変化した事にいつ気づいた?」

 茜先輩からいきなりそんな質問が飛んできた。どうやら世界が変わったことに、茜先輩も気づいていたようだ。

「朝、喫茶室で先輩達と話している時ですよ」

「遙香が来た時か」

 えっ。

「それで気づいたんですか?」

「あの時の孝昭の態度が変だったからな」

 あの時俺は、いるはずがない遙香にいきなり出会って動揺した。茜先輩なら確かに、そんな俺の様子に気づいてもおかしくない。

「ただ私自身は、世界が変わった事に気づかなかった。私の記憶も自然に書き換えられたようだ。だから孝昭の態度が変だと気づいた後、意識して注意するようにした。そうしたら幾つかおかしい点が見えた。自衛隊基地がある事がおおやけになっているとか、襲ってきた怪獣が魔法で片付けられたりとかな。どうやらおかしいと一度疑問を持てば、その後はそれなりに変化には気づくらしい」

 なるほど。

 俺は遙香の件で、世界が変わった事に気づいた。だからその後の変化も気づけた訳か。

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