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夏の魔法 ~俺と彼女と、すれ違った世界~(改訂版)  作者: 於田縫紀
第2章 異変

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第16話 測定室

 測定室へは廊下へ出ず、この実験室から直接入る事が出来る。なおこの部屋は、地下室になっているようだ。

「この建物の構造で、よく地下室なんて出来ましたね」

 確かここは、プレハブ的な建造物の筈だったのだけれども。

「実はここだけ別構造だ。測定の関係上、他からの影響を出来るだけ下げたかった。地中に穴を掘って、少しでも外からの影響を受けないよう作ってある」

 階段を下りると、そこそこ広い空間になっていた。奥行きは二十メートルほどで、奥の壁が妙に凸凹している。

「あの凹凸はエネルギーをこちらに反射せず、受け止めるためのものだ。無響室と同じ仕組みだな。ただ強烈に頑丈に作ってある。部屋の構造も工夫した。特殊な事をした場合はその限りではないが」

「これで魔法の威力を測定できるんですか?」

 塩津さんの台詞に、教官は大きく頷いた。

「ああ。この部屋の熱的変動、気圧の変化、壁や天井、床にかかった力。更には重力場の変動まで全て壁や天井、床に埋め込んだ測定器やカメラで測定出来るようになっている。測定結果を全て計算した上で、出力されたエネルギーを測定するという仕組みだ。まだ此処にしかない施設で、私がメインで設計した」

 さっきも聞いた気がするが、一応褒めておこう。

「清水谷教官って、かなり万能なんですね」

「他にない実験的装置の概念設計は、物理屋の仕事だ」

 なるほど。

「それじゃ誰から行く。測定する一人を除いて、他は隣の監視部屋だ」

「なら俺からやりましょう」

 俺の目的に間接的にでも協力してくれるのだ。少し位は貢献してもいい。

「よし、それじゃ川崎は、床に描かれた円の内側に入ってくれ。私達はこっちだ」

 教官と塩津さん達は横にある小部屋に入る。

「測定準備が出来たら、こちらで呼びかける。それまで少し待ってくれ」

 測定室からの声はスピーカーで流れるようだ。この辺も、エネルギーを厳密に監視するための細工なのだろうか。

 それほど待つことは無かった。

「それじゃ開始してくれ。終わったら右手をあげろ」

 よし、まずは今まで試せなかったものからやってみよう。

 熱を固めた上で、投げつけるイメージ。

 炎は出ない。しかし確かに熱の球を投げたイメージを感じた。それでも見た目にはわかりにくい。というかわからない。

 次はストレートな熱魔法と行こう。向こうの壁めがけて、熱を上昇させまくる。

 一部だけだが赤熱した。これはわかりやすい。

 最後に水を出してみよう。やはり部屋の奥めがけて水が出るイメージを思い描く。

 バチャ! バケツ一杯程度の水が出現した。

 こんなものでいいか。俺は右手をあげる。

「了解。測定終了だ。この部屋へ来てくれ」

 どれどれ。俺は監視部屋と呼ばれた方へ向かう。

 監視部屋はそれほど広くない。教官と俺達四人でいっぱいだ。

 狭いのは機材が多いせいもある。スイッチが並ぶコンソール類の他、マイクと大型ディスプレイ三台、そして一見パソコンに見えるマシンのキーボードとマウスが、デスク上に並んでいる。

「さて、今の魔法をもう一度、モニターで確認しよう」

 教官がマウスを操作すると、画面が切り替わった。俺を中心にした正面、左右、上、背面からの映像だ。

 俺の右側肩くらいの場所に、赤いサッカーボール大の何かが描画される。

「まず川崎は、右肩付近に熱を生じさせた。熱は球形で、大きさは直径二百五十ミリ程度。中央に行くほど温度が高く、最大温度で約二千度。鉄なら完全に溶ける温度だな。球状の外側でも千度近くある。その外側は外気温と同じだから、何らかの方法で熱を遮断していると思われる。しかしその辺のメカニズムはよくわからん」

 そして熱の球が俺の肩付近を離れ、前方へと放たれる。熱の球は前方の壁に衝突し、オレンジ色から赤色の飛沫を付近に放って消滅した。代わりに壁の一部が、暗い赤色に描画される。

「今の熱球が前に向けて投射されたようだ。速度はおおよそ時速六十キロ。壁にぶつかった後、熱を壁に移して消滅した。その分壁が熱せられ、このように温度が変化した」

 次は壁の一部が赤くなっていく。中心部は赤色に描画された。

「今度は壁を直接熱している感じだな。赤く見える部分は最大千五百度ちょい。鉄なら溶けるところだ。万が一を考えて、セラミック系にして良かった」

 最後に俺が水を出した場面。

「この水については、エネルギー換算出来ない。零から作り出したのならとんでもないエネルギーが必要だが、おそらくは違うだろう。量からして、空気中の水分を集めた訳でも無さそうだ。重力計が反応しているから、他の空間から持ってきたと考えるのが一番適切だ。ただ重力計は他の魔法でも反応している。どうやら空間構造の変化が、魔法の正体を解き明かす鍵になるのかもしれない。さて、全体のエネルギーの測定結果だ。だいたい六百二十七メガジュールだな。電気代になおすと一キロワットアワーあたり三十円として。三十万円超えだ」

 そう言われてもな。

「いまいち感覚的にわかりにくいですね」

「一般人にとって、物理の単位なんてそんなものだ。ついでに言うとTNT換算だと百五十キログラムだな。喜べ、大抵のテロに使われる爆薬の量より遙かに大きい」

 その尺度もどうかと思うのだけれど、まあいいだろう。

「それじゃ五分ほどクーリングをかけた後、次の測定と行こう。次は誰で行く」

「それじゃ私が」

 須崎さんがやるようだ。


 俺と同じような形で、須崎さんと塩津さんの測定を実施。

 須崎さんは火を操る魔法で、見た目にも炎が飛んで派手。一方で塩津さんは、火と風の魔法を使用。火は須崎さんと同じように目で見えるタイプ、風は圧縮した空気を、爆発と言っていい威力で任意の方向に炸裂させる魔法。

 出力は塩津さんの方が上で、だいたい俺と同じくらい。須崎さんはその半分程度だった。

「とまあ、こんな形で測定したり、測定結果を分析して魔法というものの理論を探ることになる。以降もよろしく頼む」

 そう清水谷教官がまとめて、魔法研究会の最初の活動は終わりとなる。


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