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愛情に才能は関係ない  作者: 合間 隙之助
ここから読めるよ
9/11

『主人公』

この小説にはフィクションならではの誇張表現や過激な描写が含まれます。現実の価値観とは異なる考え方や関係性が描かれます。すべてを現実と混同せず、ひとつの物語としてお楽しみください。

「どうもー、『ドグラ・マグラ』でーす」


言葉は気が抜けるほど軽いのに、マグカップに蹴り飛ばされた扉は奥の部屋の壁にぶつかって大きな音を立てた。


「ひぃ!!」


中にいるのは、可哀想なくらいに顔を青ざめさせてガタガタ震える『専制第一』の生徒らしい青年だ。マグカップより前に出ようとしたメートルの肩をレノールが捕らえる。「離してれのー」なんてほけほけ笑っているメートルは、だが今離せば大惨事になること間違いなしだ。


「めるー、事情聴取やってから暴れてね」


「えー」


-----



マグカップ(調査員):

「で?なんでこんな馬鹿みたいなこと…」


シロフチ(犯人):

「馬鹿なことじゃない!!

 これは、これは崇高な革命への第一歩だったんだ、!」


レノール(苦労人):

「下着泥棒…つか女洗脳して下着貢がせることが?」


スピーカー(思想が限りなく犯人に近い):

「その浪漫は俺にはわかるぜ…」


シェルフ(興味なし):

「今のところ限りなく馬鹿ですけどね」


シロフチ:

「神が、勉強しか脳のない俺に新しい才能を与えたんだ、!無知無能な女共を操る力を、この俺に与えたんだ!」


スピーカー:

「Sにもなりきれないただの自尊心の塊じゃん」


マグカップ:

「それでメールに洗脳?催眠?知らんがその能力を付与して女に下着を貢がせてた、と。んで、その間の記憶のない女の人達が「下着がない!泥棒だ!」って騒いだ訳か」


シロフチ:

「違う!俺はきちんと見合う対価を、金を払ってちゃんと買い取ったんだ!そこは勘違いするな!」


スピーカー:

「対価を払った…、はっ!俺こいつと仲良くなれる!」


レノール:

「なるな馬鹿、お前が1番バカ」


メートル(暴力):

「でもそいつ【悪】だよね、掃除(殺処分)しないと」


マグカップ:

「める?一旦落ち着こうぜ」


シロフチ:

「おれは悪じゃない!崇高な意志を持ってるだけだ!」


スピーカー:

「わかる!」


レノール:

「マジでお前黙ってろ」


シェルフ:

「でも、どうするんですマグカップ」


マグカップ:

「え?なにが?こいつ殺して終わろうよ」


シェルフ:

「貴女の仕事は『下着泥棒の捕縛』。

 下着泥棒じゃないこの人を捕まえても殺しても、

 恐らく生徒会から報酬は出ないのでは?」


マグカップ:

「はっ!!!」


-----


笑いを堪えきれて居ない有為の戦慄く口元から、ふすーと息が漏れる。因みに、パルチザンは序盤のマグカップがクリームソーダのアイス抜きを飲まされた時点で笑い転げているので(「ざまぁみろじゃ!」)役には立たない。爺は笑いのツボが浅くて困る。


「えー、それでね?

 しょうがないので取り敢えず店舗だけ燃やした」


「そうですか、放火は反省文です」


ほぼ炭の下着をいくつか教卓に並べたマグカップはそれはもうしょんぼりとした顔をしている。


「だって報酬貰えないってなってやる気消えたし…。

 それならもういっそ反省文書いてもいいから、

 手間取らせやがった野郎の顔燃やしとこうかな、って。

 ちゃんとその店舗だけしか燃やしてないよ」


笑いながらも、少し持ち直したらしいパルチザンが、綺麗にその店舗分だけ更地になった裏路地の写真を見て「器用すぎるじゃろ!」とまた笑い始めた。


「どうせ、メートル君が抑えられなかったんでしょう?

 それで犯行を行った生徒が死亡、

 メートル君一人で反省文を書かせるくらいなら、

 と、庇ってやったというところですかね」


「そこまで分かってんなら情状酌量くれない?」


「無いです反省文八百枚、明後日までに」


現実は厳しいものだとマグカップは肩を落とした。


* * *


_時は戻り、下着屋にて。


「いい?【悪】はね、蔓延るものなの。

 人が人である限り、根付いたそれは消えない。

 だから【悪】は死ぬしかないんだよ」


レノールがスピーカーを殴るその一瞬の隙に抜け出したメートルが、たった数歩の距離を迷いなく詰めた。


もう誰も止められない、それを理解しているからこそ『ドグラ・マグラ』は四人顔を見合わせて『何発か』を賭けることにしたのだ。マグカップは『三発』、レノールは『二発』、スピーカーは『四発』、シェルフは『一発』。購買で好きなものを買ってもらえる権利を賭けたのだ。


ごつ、と嫌な音がした。


「っび、ぃ、!ぃだ、!」


「逃げないで、逃げたら罪が重くなる」


ぐちゃ、と嫌な音がした。


「げほっ、っうぎッッ!」


粘着質な、聞くに絶えない音が、静かなバックルームに響く。その音は、シロフチとメートルの拳から聞こえた。シロフチを押し倒し馬乗りになったメートルが、迷いなくその顔面を殴っているのだ。


「あー、『三発』過ぎちゃった」


「俺なんかとっくに過ぎてる」


予想が外れたマグカップとレノールが呟く。


「来世は、【善い】人になれるといいね」


【悪は人に根付いているもの、一度芽を出せば蔓延るもの】というのがメートルの持論だ。【悪】を抱くことは悪いことではなく、実行したものが何を成すかでその判断が問われるものだと彼は言う。だからこそ、掃除は必要なのだと。気にかけている花壇に雑草が生えたら抜くように、【悪】として芽吹いた人を排除するのは当然なのだと。


語るは絶対的な正義。


拳を使ってそれを振り翳すメートルの二つ名は、そのまっすぐな意志をもって『主人公』と名付けられている。名付けられた大戦祭当時、友人のために動けなかった彼を揶揄する悪意を持った皮肉である。



因むと、次の日購買でブドウ糖キャンディやエナジードリンクを奢ってもらったのはスピーカーだった。


「める、一緒に反省文書こ」


「なんで俺が反省文なのか、分かんないけど…。

 まぁまぐと一緒にできるならなんでもいっか!」










一口メモ:

シロフチ:催眠能力に目覚めたので興奮して使ってしまった一般生徒。この後保健室に運び込まれたが生死不明。

メートルの正義:一般的な正義ではなく、メートルの中の正義なので本人のさじ加減次第。割と理不尽で有名。



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