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愛情に才能は関係ない  作者: 合間 隙之助
ここから読めるよ
8/12

スパーク

この小説にはフィクションならではの誇張表現や過激な描写が含まれます。現実の価値観とは異なる考え方や関係性が描かれます。すべてを現実と混同せず、ひとつの物語としてお楽しみください。

「俺の性癖にはさぁ、ちゃんと美学があんの。

 『搾取に快楽は伴わない、労力に見合う快楽を』。

 これ俺の美学ね、覚えておいてよ」


「結論は?」


「あぁん♡まぐたゃつめたい…♡

 っと、違う違う気持ちよくなってる場合じゃない」


喫茶『アンダー』の持ち帰りメニューのパンケーキを頬張るスピーカーは、フォークを指揮棒のように振りながら語る。スピーカーを中心に円を書くように置かれたデスクトップは現在進行形で動いており、ここ、情報経済部(又の名をパソコン部)の部員らしい生徒達が大慌てで働かされていた。


「つまるところ、よ。

 俺は変態だからわかるんだけど、

 この犯人は【万能感】に快感を覚えるタイプ。

 俺とは相容れない変態さんってこと」


食器を振り回すな、とか、ものを食べながら喋るな、とかレノールは言いたいことを飲み込んで、勝手な変態論を繰り出すスピーカーを睨み付ける。生憎とレノールは変態では無いのでそんな抽象的な言葉が何を言いたいのかを汲むことは出来ないのだ。だがそれをいうと、「レノは童貞だもんね」なんて笑われそうで腹が立つので睨むだけ。


「犯人は見つかったのか見つかってないのか、

 それを聞いてるんだよこのドM」


レノールが言いたいことをはっきりと言ったマグカップに今だけは賞賛を送りたい。つまりそういうこと。


「見つかんないの、でも怪しいのはあった」


歯切れが悪いスピーカーに、メートルが「知り合いの変態さんだった?」なんて聞くが、スピーカーはわざとらしく首を横に振るだけ。無駄に演技がかっていて鬱陶しいそれを殴らなかっただけ褒めて欲しい。シェルフなんて苛立ちすぎてタバコも吸わないのにライターを取り出している。


「コレ見てよ」


スピーカーが指すデスクトップには、『アルバイト募集』の表記。それも、何となく見辛い蛍光色やらゲーミングカラーやらがふんだんに使われた一昔前のフォントが踊るやつ。全員が眩しそうに目を細める。


「なんだそりゃ」


「『筵』なりの闇バイト、ってやつ?」


時給出来高払い、勤務時間未定。

仕事内容『己の下着を指定した場所に届けること』。


「本当はね、多分送り付けるやつ。

 被害者の端末ハッキングして探し出したよ。

 女にしか送らないんだろうね。

 全く!そんな事で俺から逃げれるわけないのに。

 …で、どうですよ『魔法使い』さん方」


スピーカーが試すように見たのは、マグカップとレノール。その二人は、嫌そうに顔を顰めてそのメールを見ていた。


「くっそ雑な精神干渉で気分が悪い」


「クソきめぇ」


二人がそういったことで、メートルが言った。


「じゃあ、ゴミ掃除の時間だ」


* * *


「で?なんでわたしの下着?」


「お前が生物学上女だから」


「言い方!!」


草木も眠る丑三つ時、と言えば格好が着くかもしれないが。『筵』じゃそんな時間こそ動き出すやつは多い。故に、殴られ屋や、怪しい小物を売っているバザールが並ぶ第一番街の自然公園でマグカップとレノールが取っ組み合いを始める。


「シェルフでも良かったじゃん!」


「アイツ下着は男もんだろ」


「なんで知ってるんです?恥ずかしいですね」


白々しいシェルフを置いて、マグカップとレノールの喧嘩が酷くなる前に二人を諌めるメートル。その文言が怪我するよ、ではなく犯人に気付かれちゃう!である辺りに二人の喧嘩が日常的であることが分かる。別に、人通りは結構あるので目立つなんてことは無いが、それでもちらほらマグカップを見てそそくさと逃げるような人間はいた。




「で、来たわけだけど、『下着専門店』」


表通りと裏通りの狭間、路地裏にひっそりと立つその看板を指してマグカップが大きくため息をついた。


「良かったぁ四番街じゃなくて。

 ここ一番街だからウチの生徒でも怒られないよね。

 またぱるが営業許可申請適当に通したな」


傍から見るとただの下着専門店だが、店内の張り紙にはなにが、とは言わないが『買取〼』と書かれている。それを見たスピーカーが自分の下着に手をかけるのをレノールが殴って止めた。すぐそういうことをする。


「声かける?」


「つか店員居ねぇだろ、逃げたか?」


「お、探す?」


「捜し物はスピーカーの得意技でしょう?」


五人がそれぞれ視線を見合わせると、心得たと言わんばかりにスピーカーが動く。張り紙に触れたその指から、ぱちりとなにかが弾けるような音がした。それから、ぱちぱちっと二度目の音がしてスピーカーの髪がふわりと揺れる。電気だ。火花、否スパークが散る。いつの間にか少し離れていた四人との間を区切るように『ばちん!』とスパークが音を鳴らせば、張り紙から手を離したスピーカーが店内の奥を指差す。


「奥、震えて俺らのこと待ってるよ」


終わりの気配を、全員が感じとっている。けれど、だからと言って油断する訳でも、身構える訳でもない。


「ちわー、『ドグラ・マグラ』でーす」


ただいつも通りに振る舞うだけだ。








一口メモ:

スピーカーの魔法:系統は『電気』。遠隔の電子機器操作や、生体電気の感知が出来る。割と万能型。

魔法:よく分かっていない為、詳しい分類はされていない。


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