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愛情に才能は関係ない  作者: 合間 隙之助
ここから読めるよ
7/11

アチーブ【手練な下着泥棒】

この小説にはフィクションならではの誇張表現や過激な描写が含まれます。現実の価値観とは異なる考え方や関係性が描かれます。すべてを現実と混同せず、ひとつの物語としてお楽しみください。

顔を顰めたレノール、その正反対に表情をキラキラと輝かせるメートルの構図をスピーカーは周りから己を含めた五人組が『ドグラ・マグラ』なんて呼ばれる前からずっと見てきた。因みに、名前の由来は見ていると気が狂うから、らしいが。別に読んだところで気が狂う訳でもない本の名前を、スピーカーは割と嫌っていなかったりする。仲良し五人組と認められているようで、積極的に使っていきたい。


「ぜっっ、たいに嫌だからな!」


「溜めたなぁ」


「溜めましたね」


女子組(うち一人は正確には無性)が、わざとらしくヒソヒソと吠えたレノールを謗る。


「下着泥棒なんてテメェが一人で捕まえろ!

 関係ねぇ俺を巻き込むんじゃねぇ!」


「ふ、至って正論」


断られると言う前から察していたマグカップはなんて事ないようにそれを受け入れた。が、それもすぐに撤回されるだろうとスピーカーもシェルフも会話を聞く方に回る。動いたのはマグカップではなく、その隣にいる緑頭の方。


「やろうよれの!」


跳ねっ毛の明るい緑色の髪を感情表現のようにぴょんぴょん動かしながら、メートルはレノールの手を取る。『いつも通りのやつだ』と理解したらしいレノールが逃げようとしても既に時遅し。言い出したマグカップよりメートルの方がやる気なのが全くもって『いつも通り』だ。スピーカーはここで声を出して笑えば八つ当たりが飛んでくるのを理解しているから黙ることを選んだ。


「合法で授業サボれてまぐと遊べるんだよ!

 それも皆でなんかやるの久しぶり!

 れのもやろうよ!」


なんだかんだ義理人情に弱いレノールは(マグカップを例外として)自分に好意的な人間に弱い。マグカップのこともだが、自分のことも大好きなメートルに強く誘われて断れないのなんて日常風景だった。スピーカーは我慢できたが、隣のシェルフが「んふっ」と笑い声を漏らす。


「シェル、てめ、」


「れの!俺と話してるでしょ!」


八つ当たりで逃げようとしたレノールを、メートルは逃がさない。無垢そうに見えて用意周到なのだ彼は。


「お、お前らだけでやれんだろ」


「れのとやりたいの!」



「そーだそーだ」


「レノと遊びたーい」


「一緒にやりましょうよ」


踏み込んだメートルにならって、上から順にマグカップ、スピーカー、シェルフが続けばレノールはそれはもう大きくわざとらしいため息をついて頭を抱えた。したり顔のマグカップを『ごす!』と殴ると、「やりゃいいんだろ!」と吠える。狂犬らしい感情の荒ぶり方だ。


「さっさとその下着泥棒ぶっ殺すぞ」


少し萎れたレノールがそう言ったことで、『専制第一』のクソガキ代表集団『ドグラ・マグラ』が下着泥棒捕縛に参加することになったのだった。


* * *


『筵』には古今東西様々な人間が集まる。

天才から、魔法使い、果ては人外まで、神秘が入り乱れるその場所はただの人間である方が珍しいくらいに。例を上げるなら保健部の部長であるパグラヴァ。彼は触れた人間を『直す』ことが出来る、それには怪我も欠損も関係ない。本人曰く加減が難しかったり限度があったりとするらしいが今のところ『筵』が確認している彼の能力で直せなかった傷はない。『直す』が『治す』ではないのは誤字ではない。


つまり、何が言いたいのかと言えば。


「空間系の魔法使い、…超能力関係か?」


「少なくとも人間の仕業じゃないね」


「能力の無駄使い過ぎるだろ」


この『下着泥棒』の犯人は理屈では説明の仕様がない能力を使って犯行を行っている可能性が高い。


「犯人の顔見た人が居ないのも引っかかります」


『筵』、第一番街の裏通りにある喫茶店『アンダー』でだべるのはその犯人に関する手掛かりが全く無いからだった。お陰で筵のインターネットを支配していると言っても過言ではないスピーカーが各地の監視カメラの映像を全て確認するまで暇である。


「余っ程の手練だろうなぁ、強いかな」


「嫌だろ【手練の下着泥棒】とか言うアチーブ」


レノールがマグカップの頼んだクリームソーダのアイスを食べながら、がさがさとテーブルの上に広げられた被害者のリストを漁る。特に意味は無いだろうが。


「下着泥棒って普通に犯罪だからね。

 ほら、…悪は滅ぼさないと」


【悪】という単語に闇落ちしかけているメートルは置いておいて、アイスを全て食べられてただのメロンソーダになった悲しいそれを飲むマグカップは名簿と睨めっこしている。因みにマグカップがレノールのコーラフロートのアイスに手を伸ばした瞬間その手は持ち主によって叩き落された。横暴過ぎるレノールに何を言うでもなく、マグカップは頭を捻って暴力に片寄った思考を回す。


「やっぱ非寮生の被害者が多いなあ。

 …あれ、?なんか被害者『学派』多くね?」


シェルフの頼んだアイスコーヒーの氷が、からんと涼やかな音を立てる。


「また『部派』が『学派』に嫌がらせしてんのかよ」


「えー…、そんなに陰湿かなぁ。

 なんか『部派』らしくないよね」


「確かに『部派』っぽくないですねぇ」


四人の視線が交錯する。


実力主義、言い換えれば脳筋の『部派』に、【何かを盗むことで嫌がらせをする】という考えを元に動くような奴がいるか、と言われれば誰もが首を傾げるだろう。そんなことするより相手を襲撃して襲う方が早いとまで言いかねない輩が、わざわざ力を行使して窃盗をするか。


「割と雲行きが怪しくなってきたね」


だからこそ面白い、と言わんばかりの空気だった。





一口メモ

部派:脳筋の集まり。考えるよりも早く手が出る人間が多く、力こそ至高と考えている野蛮な生徒が多い。

学派:ガリ勉の集まり。頭はいいのに体力やフィジカルが貧弱なため口喧嘩くらいしかしない。

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