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愛情に才能は関係ない  作者: 合間 隙之助
ここから読めるよ
5/12

恋人選手権勃発

この小説にはフィクションならではの誇張表現や過激な描写が含まれます。現実の価値観とは異なる考え方や関係性が描かれます。すべてを現実と混同せず、ひとつの物語としてお楽しみください。

マグカップがレズビアンであることは専制第一の中では割と有名な方である。七不思議なんてものが3倍4倍近くある専制第一の、不思議よりも可笑しい『三派閥トップ』の一人なのだから噂は絶えないが、レズビアンだという噂だけは『噂』ではなくただの事実であるが。


目に見える美少女、ではないが。

素朴でありながら愛嬌のある顔立ちで、明るくいつも話題の中心にいるマグカップはそれなりに人気がある。ただでさえ『派閥長』『寮長』という肩書きからミーハーな人間を集めやすいというのに、レズビアンだとくれば己こそ恋人に、という女子や、自分なら満足させられるという男子も寄ってきてしまう。マグカップ自身女子なら拒絶しないのでその性の奔放さは下手な男子生徒よりも有名だ。


「でぇ、無為はどうした」


パルチザンが”にやぁ“と笑いながら言えば、マグカップの表情が珍しく曇る。


「今日は記念日なんじゃろ?

 健全な恋人だったらデートのひとつくらい…」


「うるせーばーか!!断られたわ!!」


またも珍しく声を荒らげるマグカップ。


マグカップの本命が、同級生にいる眠り姫であることを知っているのは彼の『大戦祭』で前線を張っていた実力のある生徒だけだが、同時にそれを知っている生徒達はマグカップがその眠り姫からぞんざいに扱われていることも知っている。


だからこそ、他の生徒もマグカップを狙うのをやめられないのだけれど。


「プラネタリウム行こうって言ったのに…

 「眠いから無理」って断られた…」


「ひぃ、!!っぶははは!!最高じゃのう!」


「可哀想に」


机に突っ伏したマグカップの肩をぽん、とシェルフが叩く。メリーグラーノはあらあらと微笑んでいるだけだが、それが余計にマグカップの心を抉る。


「無為ちゃん…」


マグカップの悲しげな嘆きが、2年3組の教室の喧騒に飲み込まれて解けて消えた。確かなのは、腹を抱えてげらげらと笑うパルチザンの爆笑だけ。他の同級生達はそれを遠巻きに眺めながら、今日の平和をかみ締めていた。



マグカップに恋人がいる、という話になれば、大抵の『筵』の人間なら「何人目の?」と聞き返すだろう。


そのくらいマグカップのクズさは露呈している。具体的に言うなら『フラワーズクラブのキャストは全員マグカップの恋人でしょ?』という噂がまことしやかに囁かれているくらい。そしてそれを否定しないマグカップのせいで割とそれが真実に近いという噂も出てきているほど。


本命がいる、と言う噂もあるが、残念ながらそんな本当かも分からない噂よりも『私こそマグカップの本命です』という顔をした女子生徒に目を向ける方が早いのだ。




「第一回、『マグカップ本命選手』〜!!」


「今すぐに殺してくれ」


わざとらしい拍手をしたスピーカーと、顔を真っ青にして頭を抱えているマグカップとが同じ長机に座っている。


ことの始まりは、なんだったか。


マグカップが「『本命』?居るけど」と返した瞬間に、「そ、実は俺とマグは出来てんの♡」「マグカップ、言ってしまうんですか…」と調子よくスピーカーとシェルフがぼけをかましたところからか。今回問題児五人組が集まっているのは娯楽棟3階のボードゲーム部の部室。なんだなんだと集まってきた他の生徒達が「自分こそマグカップの本命だ」と名乗りを上げ始めてしまえばもうおしまいである。


「えー、それでは選手紹介しましょう!

 第1コーナー!メートル!!」


「まぐの本命になりたいなぁ、って…」


「もう既に企画の趣旨からズレております!」


「ほんとになぁ」


親友代表が照れた顔でステージ()に立っているのをマグカップはどこか遠い目で見つめている。若草色の髪をしたメートルは確かに可愛らしい顔立ちをしているが、それでも身長175をもうすぐ超える大男であるので威圧感がある。


「第2コーナー!シェルフ!!」


「参加賞のために頑張ります」


「参加賞出ねぇよバカ」


草臥れた白衣を身にまとい、ぼさぼさの金髪をしたシェルフは『無性』。レズビアンだって言ってんだろ、とはまぁ他に並ぶ生徒を見て諦めたマグカップが飲み込んだ言葉だ。


「第3コーナー!なぜ居るんでしょうレン先輩!!」


「フロースに呼ばれた」


「なんで来ちゃったの…?」


青い短髪にラウンド型のサングラスをかけた無愛想な3年生、しかもメートルと同じ『清掃部』の、そのエースが堂々の参加である。呼んだらしい『清掃部』部長兼『ボードゲーム部』部員のフロースと呼ばれた女子生徒はひらひらとマグカップに向かって手を振っている。


「第4を飛ばしまして第5コーナー!!

 『学派』のトップ、有為さんです!!」


「どうも」


「どうもじゃねぇよ愉快犯」


長い桃色の髪を三つ編みにした有為は、その線の細さも相まって傍から見ると確かに女子生徒に見える。


「それでは飛ばしました第4コーナー!

 ブチ切れているレノールぅ!!」


「巻き込むんじゃねぇ…!!!!」


「こっちのセリフだわ」


今にも噛みつかんばかりに顔を顰めたレノールは、その紫色の瞳を最大限吊り上げて威嚇するように口角を下げている。ただし、メートルに無理やりつけられた『第4』と書かれたプレートには手を出せないようで。


並んだ5人にマグカップは頭を抱えている。


せめてフロースが参加してくれれば、と視線をやっても、そのフロースは「マグカップがこっちを見てる…♡」と違う意味で忙しそうなので力にはならないだろう。


彼女は彼女でマグカップの過激派を名乗っているので視線ひとつでこの騒ぎようである。参加中の8人中2人が信者のマグカップの心労やいかに。別に止めていないクズなだけでマグカップは普通の人間の感性しか持っていないので現状は死ぬほどストレスであるとだけ言っておこう。


「お前、このコンテスト終わったら保健室行くからな」


きりきりと痛む腹を抑えるマグカップが呪うように吐き出した言葉にスピーカーは「おーけーです!」と軽い。


「お前を保健室行きにしてやるからな…!!」


最早マグカップ自体が呪いになりそうな雰囲気である。


「それでは行きましょう第1ゲーム!」


「ゲームって言ってんじゃん」


「第1試練!」


テンションの高いスピーカーと、そろそろ慣れてきた適応能力の高いマグカップがボードゲーム部にあるゲームを漁くっている間、参加者()の5人は世間話をしている。


「レン先輩仕事大丈夫なんですか?」


「…あぁ?別に他の奴らに降ったわ。

 マグカップが呼んでるって言うからきただけだ」


「あのクソ女にそんな価値ねぇだろ」


「価値は人それぞれなんだよガキ」


同じ寒色系の見た目をしているレノールとレンは何となく険悪な雰囲気を出している。それに気が付いていないのかメートルは直属の先輩と親友が話していて嬉しいらしい。シェルフは誰とも話すことなく端末を弄っているが。


「マグカップ…♡こっちにまた視線を…♡」


『清掃部』部長の肩書きを持ちながらマグカップ過激派を名乗っていないフロースはそれはもうめろめろと言わんばかりの顔でマグカップに団扇を振っている。今のマグカップにはそれに手を振るのが精一杯だ、まぁだからと言って普段からなにかファンサ的な何かをしている訳では無いが。


「はい!決まりました!

 5人いるんでポーカーしましょう!」


ボードゲームを選んでいる内にコンテスト形式なのを忘れたらしいスピーカーがトランプを見せながら5人を集める。


「もういいからキツネちゃん(フロース)もやろうぜ」


「やります!」


今日は専制第一でも珍しい平和な日だった。





一口メモ

レン:3年『清掃部』エース、好きな物はパフェ。

スピーカー:2年『情報経済部』エース、好きな物は目立つことと気持ちいいこと。

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