恋と信仰は紙一重
この小説にはフィクションならではの誇張表現や過激な描写が含まれます。現実の価値観とは異なる考え方や関係性が描かれます。すべてを現実と混同せず、ひとつの物語としてお楽しみください。
藤谷(2-3担任):
「はーい、ホームルーム始めるよー」
パルチザン(風紀委員長):
「遅刻じゃ遅刻じゃ!っと、セーフか!?」
マグカップ(フラワーズクラブオーナー):
「アウトだろ、ぱる、アウトー」
パグラヴァ(保健部部長):
「あうとー、パルくんドンマイ」
メリーグラーノ(レクリエーション部エース):
「遅刻はダメですよ、パルチザンくん」
パルチザン:
「なにおう、昨日はマグカップが遅刻しとったろ!」
パグラヴァ:
「それはそう、まぐもあうと?」
マグカップ:
「わたしは遅刻届け出しましたー。
ぱるも遅刻届け取ってこーい」
藤谷:
「はいはいお喋りはそこまでね。
パルくん今日は見逃すから早く座って」
パルチザン:
「なんじゃあ藤谷、
今日はやけにやる気がねぇのぅ」
藤谷:
「大人には色々あるの!」
…
マグカップ(『無派』トップ):
「パルー、今度の祭りいつ?」
パルチザン(『部派』トップ):
「あー?あー…、明後日くらいかの?
残念ながら今日と明日は予定が入っとる」
マグカップ:
「マジかよ、暇すぎるな」
パルチザン:
「じゃからって進んで殺し合いするか?
まぁ、息抜きにゃ丁度いいがのう」
マグカップ:
「『専制第一』らしいだろ」
パルチザン:
「違いねぇの」
パグラヴァ(保健委員長):
「まぁたツートップが物騒な話してるぅ」
シェルフ(問題児五人組の一人):
「二人で悪巧みとは仲がいいことで」
マグカップ:
「やめてよ気持ち悪いなぁ。
『無派』はクリーンで売ってるから」
パルチザン:
「どこがじゃ?ほぼカラギャンみたいな存在の癖に。
それに比べて儂ら『部派』は『風紀委員』までやってるんじゃぞ?儂らの方が余程クリーンじゃ」
マグカップ:
「週1で大怪我上等の喧嘩祭りやってる組織がなんか言ってるよ」
パグラヴァ:
「毎度おおきに〜、ってやつ?」
パルチザン:
「ぱぐせんせぇにはいつも世話になって…」
シェルフ:
「化学部も要請があれば手伝いますよ?」
マグカップ:
「やめとけ死人が出る」
パルチザン:
「流石に生徒会にキレられるからやめとくわ」
パグラヴァ:
「死人はどうしようもないからやめてよ〜。
俺達が出来るのは傷の治療、
保健部が出来る範囲の傷にしといてね」
シェルフ:
「いえ、喧嘩祭りの方を止めては?」
…
パルチザン(『林葬寮』寮長):
「いやー、仕事終わらんのう」
ペクトス(3年風紀委員):
「だね、しっかり休みながらやるんだよ」
べべ(1年風紀委員):
「それはペクトス先輩も同じでは、?」
ペクトス:
「ほら、俺は3年生だし、男だし…ね?」
べべ:
「男女差別ですか?」
ペクトス:
「あー違う!!違うから!」
べべ:
「昨今の社会情勢に着いて行けませんよ?」
ペクトス:
「本気で違うんだって…」
パルチザン:
「こらべべこ、あんまりからかってやるな」
ペクトス:
「嘘!今の俺遊ばれてたの!?
べべちゃん…悪い子になっちゃって…」
べべ:
「ペクトス先輩は扱い易いですね」
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地面に散らばった、先輩だか後輩だか分からない生徒を足で端の方に避けながら歩く。女1人に複数人で襲撃しておいて返り討ちに会うなんて情けないことだとマグカップは嘲笑とも言えない口元に浮かべて相手の体液が着いた靴の踵を地面に擦り付けた。せっかくのおろしたてだと言うのに、全くタイミングの悪い連中である。この不満を腹心のパブロフに零せばきっと足元の彼ら彼女らは明日にでも行方不明になっているだろうが。生憎と可愛がっている後輩に罪を重ねさせるほど冷たい先輩ではない。勝手に罪を増やしていく辺りをマグカップから学んでいるようだが。
「くそ、大戦の死に損ないが…!」
まだ意識があったらしい現在進行形の死に損ないが、背後で唸るようにそう零した。
「うん?酷いこと言うなぁ」
マグカップがそれに答えようとしたその瞬間、ずどん、と鈍い音がした。それには、ぐちゃりと粘着質な水音も混じっていて耳障りだ。振り返ったマグカップが見たのは、喋っていたらしい死に損ないの頭を踏み付けるメートル。
「お掃除に来たよ、マグカップ」
「…あぁ、ありがとう?」
清掃部に連絡入れたが、まさかこんなに早く、そしてメートルが来るとは思っていなかったマグカップは言葉を選ぶ。この親友は己に対して抱く感情が重いから、目の前で悪口を言ったような相手に対しては制裁が過激なのだ。
そうでなくとも、メートルという人間は過剰なまでに『平和』を信仰しているから。それを乱した相手への扱いは害獣に対する農家の怒りに近い。つまり言うと死ぬほどキレるということ。そうでなければ優しく人思いな『筵』では珍しい常識人(?)なのだけれど。
「『これ』、酷いこと言うね。
まぐは気にしなくていいからね?」
『これ』と足で踏み付けている生徒のことを、メートルはもう人間扱いしていないのだろう。
「うん…好きにしていいヨ…」
こういう時には、あまり深く突っ込まない方が精神衛生上良いと言うのをマグカップはよく知っている。SAN値は大事。同級生を大勢失ったかつての戦争でそれを学んだのだ。
『筵』には三大派閥がある。正確に言うともう一つあるのだけれど、その派閥のことを口にするのは『専制第一』の人間ならばまずしない。公然の秘密、パンドラの箱。触るな危険のレッテルが貼られたその派閥のことは今は置いておこう。
三大派閥、マグカップ率いる『無派』
パルチザン率いる『部派』
有為と呼ばれる生徒が率いる『学派』
肉体言語を主言語とした完全実力主義の『部派』と、賢い者を最も重要であると定めた排斥主義の『学派』。そして何にも寄らず、何にも縛られない自由主義の『無派』の三つのどれかに入るかが『筵』では重要になってくる。やはり相容れないのか『部派』と『学派』は険悪だし、自由主義を謳っているとはいえトリックスターとして学校のあらゆる事件や喧嘩に関わってくる『無派』は二つの派閥から狙われる。
マグカップは一応のトップだが、そういうことにあまり関わりがないのだけれど。
「レン先輩忙しくってさ、
それにまぐが呼んだって言うから俺が来たんだ」
『掃除』が終わり、にこにことマグカップに話しかけてくるメートルは『学派』である。賢い、という訳では無いが、力で支配するのは違う、ということで彼は『学派』に所属している。
『悪』と認識したものを力ずくで排除する辺りに『部派』の片鱗が見えているので、パルチザンがよく『部派』に勧誘している。
閑話休題。
「別にお前が来るまででも無かったのに」
「いいの!俺が来たかった。
俺がマグカップに会いたかっただけ」
ぽ、と顔を赤らめてそういうメートルにマグカップは「あー、そう」と苦笑いで返す。これが恋愛感情ならまだ利用の仕方があったかもしれないが、メートルのマグカップに向ける感情は信仰に近いので扱い難いのが本音だった。普段は気のいい親友なのに、時折こうなるから。
「そう、まぐ明日れの達とやるげーむなんだけど」
「初心に帰ってジェンガとかしようぜ」
「いいね!」
だからといって「やめて」と言わないのがマグカップの性格の悪い所だった。
一口メモ
パルチザン:『筵』の三大派閥『部派』のトップ兼『林葬寮』の寮長。趣味は強いやつとの喧嘩。
メートル:2年『清掃部』。好きな物は『平和』で嫌いなものは『それを害する【悪】』