倫理観くらいなくても良いでしょう
この小説にはフィクションならではの誇張表現や過激な描写が含まれます。現実の価値観とは異なる考え方や関係性が描かれます。すべてを現実と混同せず、ひとつの物語としてお楽しみください。
藤谷(2-3担任):
「はーい、皆さんおはようございます。
それではですね朝のミーティングの前に、
校門付近の花壇にジャイアントホグウィード植えた化学部の子は正直に手を挙げてくれるかなー?」
スピーカー(情報経済部エース):
「せんせー、3組に化学部は一人でーす」
藤谷:
「知ってるよー」
シェルフ(化学部エース):
「誠に遺憾です、私だと決め付けて話を進められると言い訳の仕様がありません、告訴」
藤谷:
「不受理、言い訳って言ってる時点で君だね」
…
マグカップ(2年帰宅部エース):
「へー、それで棚田(3-1の担任)にチョークスリーパー食らってた訳?遂にあの筋肉バカが自分の限界を知るために生徒襲いだしたかと思ってびっくりしたじゃん」
メートル(2年清掃部):
「あはは、まぐもしぇると同じ3組なのに知らなかったの?」
マグカップ:
「今日は遅刻したからね」
レノール(レクリエーション部):
「ねみぃ」
スピーカー:
「そういやレノも遅刻だっけ?
ッッは!!!もしかして二人ヤッてきた!?」
レノール:
「ころすぞ」
シェルフ:
「昨日は私とレノとマグカップで桃鉄やってまして、私が負けたので『渋々』罰ゲームとしてあれを植えに早く登校させられたんです、怒られましたし悲しいです」
マグカップ:
「やっぱ蚊を放つくらいにしときゃ良かったのに」
スピーカー:
「保健部朝から大忙しだったらしいぜ?」
マグカップ:
「やべ、パグ先生(2-3保健部部長)に怒られる」
レノール:
「俺は関係ねぇ」
メートル:
「でも罰ゲームの『沢山人に迷惑がかかるやつ』って言ったのはれのなんでしょ?怒られない?」
レノール:
「俺は関係ねぇ」
シェルフ:
「はぁ、お陰で放課後までに反省文を職員室に届けなければいけないんですよ、面倒くさい」
マグカップ:
「あれ?職員室で打ち上げ花火したからもう提出しに行く場所無いんじゃないの?」
シェルフ:
「元々藤谷は職員室追い出されてるので、彼が言う職員室は校舎裏のウサギ小屋です」
メートル:
「可哀想…」
…
マグカップ:
「せんせー、遅刻届け持ってきたよー」
藤谷:
「マグカップちゃんもう放課後なんだけど」
マグカップ:
「おっさんは時間感覚に厳しいな」
藤谷:
「おっさん関係ないよね、!?」
シェルフ:
「藤谷、反省文書いてきましたよ。
ほらこれが欲しかったんでしょう?地面に頭擦り付けて「欲しいです」と懇願してみて下さい」
マグカップ:
「おいおい藤谷、生徒になんてこと言わせてんだ」
藤谷:
「急にSM始めたのそっちだよね!?最近のセクハラってこんな押し付けがましく来るものなの!?」
シェルフ:
「男同士でもセクハラって成立するんですね、女にできないからと男に始めてそっちに目覚める人が増えそうですね」
藤谷:
「今そんな感想求めてないかな!!」
マグカップ:
「マジかよJKのマグカップちゃんは驚いたぜ、藤谷そっちの気があるのか?嫁と子供に逃げられて男色に目覚めたのか。まぁ…あー、なんつーか、ほらそういうのって人それぞれだしな?」
藤谷:
「フォローが今一番苦しい!!!」
シェルフ:
「マグカップが運営してる出会い系サイトにそっち系として登録して差しあげたらどうです?」
マグカップ:
「別にいいけど…」
藤谷:
「良くないよ!!」
…
パブロフ(1年帰宅部):
「さっさと失せろ、ゴミ野郎」
メートル:
「おわ、パブロフ君?」
パブロフ:
「あ?…メートルかよ」
メートル:
「先輩って付けようね?ほら、この学校そういうの大切にしないと殺しにくる人多いからさ」
レノール:
「舐めてんじゃねぇぞクソガキ」
メートル:
「ほらね!落ち着いてれの!!」
パブロフ:
「やってやるよ」
メートル:
「落ち着いてね!?って、ほら!パブロフ君足元の不良が逃げようとしてるよ!いいの!?」
パブロフ:
「ッチ!お前らみたいな暇人に構ってる暇ねぇんだよこっちは!喧嘩なら一人でやってろカス!」
レノール:
「喧嘩が1人で出来る訳ねぇだろ」
パブロフ:
「じゃあな暇人共」
メートル:
「行っちゃった…。パブロフ君忙しそうだね、フラワーズクラブ(マグカップが経営する学内クラブ)、色んなところから目付けられてるから大変そうだ」
レノール:
「…今度あのクソ女のとこ襲撃に行くか」
メートル:
「溜めて言うことがそれなんだ…。
面白そうだからまぐに内緒で行こう」
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どーん、ばーん。
耳をすませば聞こえてくる破壊音にマグカップは歩みを速めることにした。そうでもなければ次に吹き飛ぶのは化学実験室ではなくてマグカップの頭になる。
天才蒐集都市『筵』にある教育学高等部『専制第一』の校庭には地雷が埋まっているというのは入学したやつなら誰でも知ってる実際の噂だった。まぁその内の過半数を埋めたのはマグカップとその友人達であるメートルを筆頭にした悪ガキ達であるのだが、残りの少数は昔やっていた学内戦争で自衛のためとして教師陣が埋めているので怒られることは無いだろう。
現在の専制第一2年3組はその学内戦争、通称『大戦祭』の真っ只中を生き抜いてきた猛者達なので説教も反省文も恐ろしいことではないのだ。少なくとも税金より怖いものは無い、というのが彼等の言葉である。
閑話休題。
大戦祭でごっそりと人が辞めていった(行方不明になった)専制第一で珍しい女子生徒に属するマグカップはそれなりに実力があるので地雷や爆弾程度当たったところで特に問題は無い。ただし辺りが散らかるとどこからともなく『清掃部』がやってくるので迷惑をかけないようにマグカップは姿を隠すように早足で目的地まで急ぐのだ。なにせ清掃部には親友のメートルがいるので。
「オーナー!やっと来てくれた…。
個室用意しとくから、ゆっくりして行けばいい」
目的地、学校の敷地内に作られた娯楽棟、もといフラワーズクラブ(現在は風営法的な意味合いで具体的に言うのは憚られるが)の一応のオーナーの立場にいるマグカップを迎えたのは1年生のパブロフだった。長身で、鋭い眼光の『いかにも』な風貌な男子生徒だけれど、ことをマグカップに対してだけは忠誠心に狂った犬のように尻尾を振ることで有名である。
『狂犬』、はまた別の生徒の二つ名だが、パブロフ自身には『獣』という二つ名が与えられるほどの暴れん坊であり、怒りの沸点が低く怒ると手がつけられないとは筵の人間なら誰だって知っている。
「がおちゃんは相変わらずだねぇ。
連勤し過ぎるのはやめてね〜、
また生徒会に労働基準法朗読されるのは勘弁」
「ん、分かった。タイムカードきらないでおく」
「そういう事じゃなくてね?」
いつからこの後輩はこんなに社畜になってしまったかを考えながら、マグカップは室内で騒ぐ生徒達を眺める。マグカップを見て驚いたような顔をする生徒もその種類は様々だ。嫌そうな顔をして荷物を纏める者、近付こうとして傍に居るパブロフの出方を伺っている者。そのどちらが正しいなんてことは無いだろうが、学校では知らないものはいない悪ガキのマグカップから距離を取ろうとする方が人間的には賢いのかもしれない。
「ま、どうだっていいけど。
本当に顔見せに来ただけだから、
がおちゃんが元気なら帰ろうかな」
パブロフがぎしりと固まる。
「今元気じゃなくなった」
「え?」
「オーナーが居ないと仕事出来ねぇ」
まるで幼子のような駄々にマグカップは笑う。マグカップに対してはプライドなんてないらしいパブロフは、その長身をわざとらしく屈めてマグカップの制服の袖を掴みいやいやと首を横に振るだけだった。
「そっか、じゃあ一緒に帰る?」
「…おう」
しおらしく体を縮こませたパブロフがこくんと頷く。マグカップはからりと笑うと、中身の入っていない通学カバンをパブロフに渡して繋いだ手を引いた。
一口メモ
マグカップ:『筵』の三大派閥『無派』のトップ兼四葬寮の内の『火葬寮』の寮長。趣味は賭け事。
パブロフ:『火葬寮』の副寮長、趣味はマグカップの為になること。