⑨あの光
あれ~?ないわ~?
ガチャガチャ
ガチャガチャ
どうしたの?僕が聞くと母は財布がないと
納得いかない様子で
つぶやいた。あれ?
おかしいわね~。ちょっと家まで見に行ってきていい?家はほんの50m程先なのだ。小走りで行けば、充分に、この行列がすすんでしまうことはない。僕はいいよ、並んで待ってる。というと、母はごめんね、すぐ戻るからと告げ、走って家の方へ向かっていった。屋台は軒並み、ズラリと道、両脇に並んでいて、屋台の後ろは、トイレなどの抜け道があり、だいぶ、茂っている。屋台の明かりが無くなれば、薄暗く、神社のような装いだ。僕は、なんとなく並んでいるかき氷と、金魚すくいの間の茂みを、見ていた。蛍のような光が、筋のように流れていく。あっ!と声をあげたいが、1人なのでこらえる。蛍だと思い、その緩やかな光を、ずっと眺めていた。するといつの間にか、ガヤガヤとしてる祭りの音が、静かになり、音は消えていった。無音。光だけが近づいてきて、まるで僕の手に乗るかのようにゆっくりと。大きさはソフトボールくらいで、キラキラと白い光。僕と光だけの世界みたいに見えた。しかし、暗転。光が消え
、真っ暗になった。目は開けているのに、見えない。光は、次にビュン!と高速で目の前を通りすぎる。目では追えない!ビュン!ビュン!動きは不規則で
縦!右斜め!横!と通りすぎる。いつか僕目掛けて、ぶつかってくる気がした。声も出ない。ビュン!ビュン!光は真正面から、僕目掛けてきた!強い衝撃!!ドカッ!!と音かしたら、辺りは一変!薄暗く、でもお祭りの場所ではない!墓地だ!墓が無造作にゴロゴロと置かれていて、お墓参りで見たギザギザの木や鉄クズなどが積まれている!なんだ!ここは!と思っていた瞬間!僕は、突然大きい男の人にヘッドロックされた!後ろからガシッと持ち上げられた。ふざけたような力ではない。僕は
足をバタバタして、手は首に巻かれた腕をはぎとろうとするが、僕は完全に宙に、浮いている!殺される!男は言った。
『お前!ここで何をしている!!』
野太い大きく、心に響く声。嗚咽がした。
男はそう言った後、カハッ!カハッ!
グギュルルルキュルキュルと不快な音を立てて、僕をヘッドロックから突然離した。何か男のノドに異変が起きているようだった。男が苦しんでいる。僕はヘッドロックをしていた男の顔を、みた!瞬間に、僕は声のある限り叫んだ!ぎゃあああああ!!
でもヘッドロックされていて、ノドは潰れ、声になっていたかはわからない。が、断末魔をあげた。その苦しみもだえている男は、黒い上下スーツを着ていて、頭がなんと鹿であった。ヨダレがダラダラと垂れて、グギュルルルキュルキュル!
手を口の中に入れている。首に何か光ったものが、巻きついている。☆×&%。声がする。何か墓場の向こうから、同じような、鹿や猪の頭で、スーツを着た男達がやって来た!
きっとコイツの仲間であろう。
よく見ると苦しんでいる鹿男の首には、さっきの光が、糸のようになって、巻きついていた!この光が僕を助けていてくれてたんだ!
その光は、締め付ける糸の力を増し、ぐぐぐぐぐと音がする。男は息も出来ないくらいにバタバタした。男の身体全体が、ビクビクんと激しく動き、異常な音が響く!ビシャゃゃゃゃ!光は鹿男の首を断ち切った!辺りには鹿男の首が、グルグル回転して、血しぶきが舞った!ブシャー!ビュっ!僕の方にも、飛んできて慌てて、肘をあげて顔を隠したが返り血だらけになった。ドバッ!うわー!僕は声を上げた。
墓場の向こうからは、数人の、鹿、猪の頭の男たちが声をあげている!&%#◎♪♂!!。何語かわからないが、仲間を殺した的な事を言っていたと思う。逃げなきゃ!!きっと僕も、絶対殺される!そう思った次の瞬間、糸になっていた光が、ソフトボールくらい大きさになって、グルグル僕の周りを物凄い速さで回っている。もうすでに、僕の目の前まで、飛んできていて、僕の真正面からその光が
ぶつかってきて吹っ飛ばされた!!
ズシャアアアアアア!!!僕は転がっていった。
僕は、ガヤガヤとしているお祭りの場所に戻ってきていた。
かき氷の出店に並んでいたはずだったが、
僕はトイレの個室にいた。…。あれ?どうして?鹿男は?あの光は?心拍数は、異常なほど、早い。
慌てて、外へ駆けでると
母がトイレの外で待っていた。
あっ!!!お母さん!僕は母に飛びついた!
ちょっと~と言う母をよそに、僕は
聞いてよ!聞いてよ!光がね、現れて!
細く見えてね。それでね、それで、んと、鹿の!
鹿の頭の男がいて!
ハア??何?夢でも見てたの?
何言ってるの!訳の分からないこと。
トイレで寝てたんでしょ!
だから…と、母は時計を見る。
7分もトイレに入ってたのよ!
違うよ!と僕。本当に鹿の男がいて
光がやってきて、クビはねたの!!
母は、はいはい的な態度で
両手を肩くらいまで上げ、首をかしげた。
バカなことばっか言ってんじゃないよ、全く。
ねー本当だよ~と言いながら
本当にあったことなのか段々自信がなくなってきた。
あれ?そういえば財布あったの?
と聞くと
何言ってんの?財布って何?寝ぼけてるんでしょ!
もう7分も待ってたんだから!!
7分よ!!
時計を見た母が言った
えっ!そうなの?
かき氷は並んでなかったっけ?とあせる僕。
何言ってるの
食べたじゃない。
…。
食べた?…。
それよりどうしたの?
鼻血?母が僕の襟あたりを指差す。
僕の襟の横に
鹿男の返り血が1滴だけ
ついていた。
ゾクリとした。
完全に体験したのだ。
異世界に紛れこんだ。
少ししたら襟の血は
消えていた。
僕はしばらく鮮明に
この事を覚えていて
色んな角度から
話したが、母には違う時間が流れていたこと
僕は鹿男に殺されそうになって
光が僕を助けてくれたこと。
話したが、誰にも
まともには聞いてもらえず
だんだんとその
異世界の恐怖は
現実世界で受け入れて
くれない恐怖に
変わっていって
記憶に蓋をして
2度とは思い出せないくらいに
記憶からスッポリと
なくなっていた。
僕は鹿男と会っている。
あれがはじめてではない。