㉒並走恐怖
祝律音はカフェで考えを
まとめていた。悪鬼に結果を
どう伝えるのか
時刻は10:35分。そろそろ自宅に戻らないと友が来てしまう。あの曲について、どう、話すか大体はまとまった。駅から僕の自宅までは、7分ほどだ。話しをまとめながら歩いていると、そんな広い道ではないのに、僕に追いつき、並走して歩くおばさんが見えた。追い抜きたいのかと、歩くスピードを緩めると、同時におばさんも、スピードを緩め、並走を保つ。知り合いかな?と覗きこむと、見知らぬおばさんである。髪は白髪でボサボサ、小豆色の上着に、インナーは、畳の縁の様な、抹茶色と金色の柄模様。ズボンは、紺色のダボッとした股引のようなものを、履いている。おばさんは僕にはまるで見向きもしない。なんだろ?と不思議がりながら並走していた。ちょっと奇妙な出来事に、ゾッとしていた。走ろうかなと思ったが、追いかけられたら尚、怖いしな。そんなことを思っていると、前から車が来て、並走して歩いていたら、車が通れない。縦になろうと歩みを止め、すばやく、おばさんを前にして後ろに回ろうとして、並走おばさんは、僕の前になった。その瞬間、おばさんは立ち止まり、身体はそのままに、後ろの僕の方へグルンと首だけが振り向いた!
その首は叫んだ!
うぎゃあああああああああ!
同時に車が、駆け抜けていった。赤いセダンの車だった。その車には、一瞬だがらガイコツが身を乗り出し、箱乗りしているように見えた。幻覚だろうか?…。
勢いよく振り向いた首は、鼻が魔女っ鼻で目は大きく見開いて、色は充血なのか、返り血を浴びたのか、真っ赤だ。口は、正に口裂け女さながらに、横に裂けすぎて血だらけで、うすら笑っていて、さらに猫を抱いていた。猫も全身の毛が逆だっていた。シャム猫だった。
僕は恐怖のあまり叫んだ!!
うぎゃああああ!!化け物!!
うわあああああ!
急いで僕は、おばさんを左側から、追い抜き、逃げ出した!とにかく走った!腰が抜けているのか、上手く走れないが、ヒイヒイヒイと自分の呼吸が乱れているのを感じた。自宅はもうすぐだ!振り向くと、猫を抱いていたおばさんは、四つん這いになっていて、
追いかけてきている!!!何か叫びながら
追いかけてきている!抱いていた猫も、凄い形相で追いかけてきた!早い!
時速40kmくらい
出てそうだ!追いつかれる!
僕は必死に走って逃げた!だが、ダメだ!おばさんの化け物は、僕に向かって後ろから飛びついてきた!首元を噛まれた!ガブッ!あの大きな口裂け女のような口を、めいっぱい開いて、噛み付いてきた!吸血鬼なのか!コイツ!僕は死を直感した。走馬燈のように色んな思いが巡ってきた。こんな化け物に殺されるなんて!耳元には、ク、キュイン、ク、キュイン、ク、キュインと大きな金属音なのか、血を吸われる音なのか、その奇妙で不快な音と共に、自分の身体ごと、化け物に首を噛まれたまま、回転して下へと落下していったように感じた。
音だけが、ク、キュイン、ク、キュインと
響いていた。ク、キュイン、ク、キュイン。
祝律音は、魔女のようなおばさんに
首を噛まれ、墓場界へと
堕ちていった




