⑲ミックの祝福
僕は、黒く、丸く映った、波打つ、自分の顔を眺めていた。あの散々たる結果。頼まれていたあの件。友に頼まれていた『あれ』のことだが、どう伝えるべきか。どういう伝え方を、するべきなのだろうか?僕は悩んでいた。
行きつけの、最寄り駅である、アーバンパークラインの運河駅近くの喫茶店で、悩んでいた。店内には、イギリスのバンド、the style councilのmick’s Blessings(ミックの祝福)という曲が、流れ出した。イントロは、ソフィスティ・ポップで、軽快なキーボードから、始まるこの曲は、1984年に、ポール・ウェラーが、the jamを解散した後に、結成したthe style councilの1stアルバム、Cafe Bleuの1曲目である。
キーボードのミックタルボットのリード曲だが、1:15くらいしかない短い曲だ。秀逸な短さだと思う。ポール・ウェラーは、ukパンクからの路線変更で、the jamのファンからは、散々酷評もあったらしいが、
見事、全員黙らせるような、軽快なミックのリード曲で、the style Councilは、ポップス・ロックで、ファッショナブルな、ソウルフルバンドの地位を、確立していったのであろう。
アルバムは、全英アルバムチャート第2位を獲得した。
このままこのアルバム『Cafe Bleu』を全曲聞きたい気分だった。
友に頼まれた『あれ』とは、彼は音楽プロデューサーの仕事していて、ゲーム音楽やVOCALOID、映画音楽等、提供している。彼とは1年を通して、3回会うか、会わないかくらいの距離感だ。仕事内容などの、深い話は、そんなする事もなく、日常的にこんな事があったよ程度の会話だ。この間、そんな彼が、ふと僕のところに
データを持ってきて
『この曲だが、ヒットするかどうかを占って欲しい。3日後に結果を聞きたい。』
という案件であった。そんなことを、幼なじみの彼に言われたのは、はじめての事だった。彼なりに、凄く思い入れの強い、楽曲なのだろうか?曲は、もちろん聞かせてもらったが、人生を、左右するかのような曲という印象はなく、確かに、今までの彼の楽曲とは、曲調や、リズム、歌詞については、メッセージ性が強く、だいぶ今までとは違っている印象を受けた。
僕は、音楽評論家ではないし、詳しいことはわからないが、きっと、これからの自分の挑戦や、作曲者ではなく、ミュージシャンとしての自分っていうものを、見つめ直したような作品に思えた。
喫茶店のBGMの『Cafe Bleu』は、そのままアルバム毎流れていて、3曲目の『俺の船が来た!』まで流れていた。
また、そうでなければ、週末だけ、趣味の範囲で、タロットカード占いをしている自分に、幼なじみとはいえ、曲のヒットを、占って欲しいとは、お願いしてこないであろう。そう思えた。
彼に占って欲しいと渡された
そのデータの曲には
『おかあさん』
という題名がついていた。