⑰アンソニー・バージェンス
骨郷に降り立った
堕惡黒とアオキ。
向かう先で…
焦げ臭い、この辺りは雑居ビルの廃墟化されたお化け屋敷のような集落が建ち並ぶ、まさに、ゾンビや鬼ネズミ、ガイコツたちや、ひしめき合っている。みんなが、みんな、意思を持っているようには、見えないが、無駄に争う姿勢もない。
装いが違うだけで、普通に現世と大して変わらないという事だ。『慣れてしまえば、臆することもないよ、堕亞黒。』とアオキも言っていた。僕の変化は、鬼ネコであるし、きっと傍から見たら墓場界に馴染んでいるような装いだ。全体的に白く、鬼才スタンリーキューブリックの1971年の映画、時計じかけのオレンジの、俳優マルコム・マクダウェル扮するアレックスの様な、全身白い服で、黒いハットは被っていないものの、黒のエンジニアブーツを履いている。それに、左目は、アレックスの様に、目の下につけまつ毛を付けたような状態になっている。鼻は表面には存在してない。匂いはするので、むしろ、現世で生きているより、10倍は鼻が利くように思える。口は、への字に結ばれていて、牙が左右に2本、突き出している。立派な化け猫だ。時計じかけの鬼ネコだ!ドルーグ(仲間)たちと、スメック(笑い)し合い、トルチョック!トルチョック!(殴る殴る)という気分になる。現世のイメージや思想や好きなものを、ある程度、持ち込めるのだろうか?時計じかけのオレンジは、とても好きな映画だ。
原作を書いたのは、イギリス人作家アンソニー・バージェンス。元々は陸軍に従事していた軍人であった。彼の奥さんは妊娠していた際、4人の脱走アメリカ兵によってレイプされる事件があった
。自分自身も脳腫瘍のために余命長くもないと診断されていた
。残されていく家族への遺産がわりにと筆をとったのが、この『時計じかけのオレンジ』だった。
生きる希望を失った42歳のアンソニーは、アルコールに溺れながらこの入魂の一作を書き上げる。その後、キューブリックによって映画化される。原作側の意思と、脚本側の意図がすれ違い、かなり悶着があったようだが
それを全部アンソニーが見届けられたのも
どういう訳か、脳腫瘍というのは誤診であった。彼はその後も元気に76歳まで人生を全うすることになる。なんと数奇な人生だ。
墓場界では、アンソニーのような、死を意識した作品の様な何か…自分を見つめ直した集大成を何か、成し遂げることを意味している気がしている。僕が、時計じかけの鬼ネコになったのも、何かしら、意味のあることなのかも知れない。そんなことを考えていると、ここは崖の上に歩いてきたことが、わかった。
崖下には、大きな、赤黒い、骸骨の島がみえた。骸骨の両の目の穴からは、炎が轟音と共に吹き出している。
案内をしてくれている。アオキが言った。
炎の生命エネルギーを
得る場所。ここは、
この熱気を帯びたこの修練場は、大亜空炎界って言うんだ。
鬼ネコの自分に堕惡黒は
時計仕掛けのオレンジに
思いを馳せる。
アンソニーバージェンスを
墓場界で、回想する。




