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エピローグ 聖女の指輪と結婚指輪

私、ルリがプロポーズされてしばらく経った。


今はヴァーミリオンが城で兄であり王であるヌーマイトと久しぶりに昼食を共にしていた。


パルデールとの戦争が終わった今、ヴァーミリオンも騎士団長としてばはなくなるべく王弟として城にいる事が多い。


今の昼食だって騎士の頃は個別で支給されたものや店で食事をとっていたが平和な今、こうやって王達に誘われて一緒にとる事になったのだ。


「そういえばヴァーくんはルリさんもうプロポーズをしたのよね」

彼をヴァーくんと呼ぶ美しい桃色の長い髪が似合う女性はヌーマイト王の妻であり妃のローザだ。


「ええ」

誰にでも物腰が柔らかい彼女は朗らかで話の種を振ってくれるムードメーカーだ。


兄嫁に相変わらずの敬語に妃はむうッとして不満そうだ。

それは彼にとって彼女は妃なのだから仕方ない。


しかし、妃はお構いなしに話題を振る。



「どんなプロポーズしたの?」

妃はずばり、聞かせて!っと前のめりで聞く。


「は、はい?」

ヴァーミリオンはどういう事かとこれには困惑した。


「ほら、私の場合は彼が私の家に来てプロポーズして国中に知れ渡ったでしょう。

嬉しかったけどあれはあれで恥ずかしかったのよ」

「はあ」


つまりはどういう事だろう?

ヴァーミリオンには話が見えない。

妃の横ではヌーマイトが妃にそれはすまなかったと少しシュンとしている。


妃も一応良家出身だから散々国民に祝われたが、だからこそ2人きりのプロポーズに憧れがあったのだろう。


「私も特別な事は特には」

「しなかったの!?」

え〜〜っ!と言われ気まずい空気が3人の間に生まれる。


「丘でデートをしている時に指輪を渡しました」

「へえ、ヴァーは指輪は選んでいたんだね」

「いや、それは聖女の指輪をそのまま渡したーー」

「嘘!?何してるのヴァーくん。信じらんない!」

ヴァーミリオンが話終わる前に我慢できなくなった妃がダメ出しをする。


「まずかったでしょうか?」

(ルリは喜んでくれたんだが)


「流石に私も彼女の為に職人に作らせたよ」

「マジかよ」

兄の発言につい素が出てしまう。


「ヴァーもこの際職人に頼ったらどうだい?」

ヌーマイトの提案に妃も頷く。


しかし

「いや、いい」


ヴァーミリオンはこれを断った。

「俺にも考えがある」

そう言うと彼は席を立ち、自室に戻って行った。


一方の私も指輪の件で頭を悩ませていた。

「ええ!ルリの指輪買ってもらったんじゃないの?」

大きな声がデ・シャールの教会に響いた。


声をあげたのはシスターの友人、クルシュだ。


「ダメかしら?聖女の指輪、私は気に入っているんだけど」

「ルリが気に入ってるんならいいけど」

と言いつつ彼女は不満そうだ。

彼女はシスターの中でも部屋着やおしゃれ着、ファッションにこだわりがあるから仕方ないのだろう。


(そういえば戦いの時、聖女の指輪をもらったなんて他の人に言わなかったし。

いや、城や王家に伝わるから簡単に口外しちゃいけないと思って言えなかっただけだけど)


クルシュにどう返事しようか悩む。


(確か前の、銅像の聖女もヴァーミリオンの贔お爺さんと結婚した時に婚約指輪としてはめていたって聞いたしそれを受け継ぐなんて)


聖女の指輪はデ・シャールの金山で作られてる事もあって聖女に力をくれると聞いた。


「私はロマンチックって思っていたんだけど」

「ルリらしいわ。他の子が聞いたら私だったら職人に豪華な指輪作らせるわ!って言う子ばかりよ。

あー、羨ましいわ。ハイスペ婚」

「ハイスペって」

「だってそうでしょう?」

「まあ」


そう返し、うーんと腕組みしながらデ・シャールの市場で教会の夕飯の買い出しに行くといろんな人に声を掛けられる。


「ルリ様買い物?」

「ええ」

教会で食後のデザート用に何かないかと八百屋を見ていると店のおかみさんに声を掛けられた。

この国の人は気さくだ。


「ねえ、結婚式するんでしょう」

「それがまだ決まってなくて」

「そうなの?」

「はい」


最近、プロポーズされてからそれはすぐ広まったのかいろんな人からこの話題を振られる。


「きっとヴァーミリオン様からすぐに話があるわよ」

「だと嬉しいんですけど」

おかみさんにそう言われなんだか照れてしまう。


「楽しみにしているわ」

そう言われ店を後にした帰り道、結婚祝いと果物や野菜をサービスしてもらったので私は上機嫌になった。


最近はたまにこうやってもらい物を頂いたり、サービスしてもらえるから買い物が楽しい。


(まあ、だから私が買い物当番になるのかしら?)



なんて思いながら教会に帰ってくると誰かいた。


見るとクルシュとミサにたまに来ていた女性が2人して話しているところだった。


(邪魔しちゃ悪いから裏口から戻ろうかしら?)

とUターンしたところで女性の声が聞こえてきた。 


「あ〜あ、私にも聖なる力があったら王子と結婚出来たのに〜。ねえクルシュ誰か紹介してよ」

「そんな知り合いいたら私が付き合いたいわよ。

っていうかまさかアンタ、ヴァーミリオン様が好きだったの?」

「まさか!でも聖女だったらいろんな方からお声が掛かるじゃない」

「まあねえ」

クルシュが同調する。


「ヴァーミリオン様だってだからルリ様に惹かれたって事はあると思うの!」

「それだけじゃないと思うけど」

クルシュが少し呆れて言うと

「でも町娘と聖女なら興味は聖女じゃないと湧かないでしょう?」

「まあそれはそうね」

笑い合う2人に少しだけモヤモヤした。


(そりゃそうよね)

納得するけどどことなく虚しい。


ヴァーミリオンに言われた訳じゃないのに。


裏口から戻るとシスター長が出迎えてくれたのでひとまず八百屋でサービスしてくれた事を話してその日は自室に戻った。


(大丈夫よ。明日またデートするし)

クルシュにまた借りなくてもいいようにあれから服だって何着か買った。




(明日はクルシュ髪アレンジしてもらおう)

そう思いながら私は床についた。


翌日。

「ヴァーミリオンお待たせ」

「おう」

教会まで迎えに来てくれるヴァーミリオンに礼をいうといつも通り彼は少しそっぽ向いてる気がした。


「髪、今日いつもと違うんだな」

「クルシュに巻いてもらったの」

今日の髪型は後ろの下でひとつに中に織り込んだ髪型になっている。


後ろもサイドも緩くウェーブがかかっていて今日の淡いオレンジのワンピースにも合っていて気に入っている。


「似合ってる」

と言われて嬉しくなる。


最近、こうやって会話をしていると彼は前よりも目線や態度が甘くなったって感じる。


「ーっ、ヴァーミリオンも今日はいつもと違うのね」

照れながら、いつも会う騎士団長ではない私服の時は胸元が少し空いたシャツにアクセサリーを付けたりした格好だが今日はベストを着ていているからか全体的にカッチリめだ。

「どうしたの?」

確か今日は夕方は王族御用達のお店でディナーをしようと言われていたからかと思ったけど

「たまにはな」

と彼は言った。


「ふーん。じゃあ行きましょうか」

そう言うと彼は

「ルリ、悪いけど今日の行き先はルノワに変えないか?ああ、でも髪は今日セットしてるからやっぱり別の日がいいか」

ルノワは隣国だから交通手段は竜になった彼に乗せて行ってもらう事になる。

「いえ、大丈夫よ」

(今日の予定はデ・シャールに新しく出来たカフェに寄ろうかとは話していたけれど)

「髪はまとめてるからそんな乱れたりはしないわよ」

「じゃあ決定」

そう決まると私達はルノワの町から離れた場所に到着してそれから現地で馬車を借りて街まで行く。


(やっぱり街は賑わってるわね)

私がいたルノワの教会は辺境だから場所によって様々な顔があるみたいだ。

今は昼時で人も多い。

心なしかヴァーミリオンの足取りは少し遅くなった気がした。

彼は人混みが苦手だ。

特に香料の匂いが混じるのが苦痛なのだろう。

「ヴァーミリオン大丈夫?」

「大丈夫だ。それより今日はこっちだ」

大通りから外れた道に入るとそこには小さい書店やカフェが並んでる道に入る。


(この道を通るのは初めてかも)

どこに向かっているんだろうと思っているとヴァーミリオンは店を見つけて中に一緒に入る。

すると店内にはガラスケースに入ったアクセサリーが並ぶ店だった。


「ここは宝石店?」

彼はここに行きたかったのかと聞くと

「ああ。ルリには聖女の指輪を渡したけど流石にそのまま渡して悪かった。

改めてちゃんとしたのを選んでもらおうと思ったんだ」

「ヴァーミリオン」

知らなかった。

彼なりに気になっていたなんて。


「でも私これ気に入ってるの」


「そうなのか?」

「ええ、なんかこれを付けているとね、私が聖女だからのもあるからだけど護られてるいるような感じがするの」

聖女に力を貸す指輪だけど護られてると感じるのは彼にもらったからだ。

「私はこの指輪が嬉しいの」

そう言うと彼の顔はほころんだ気がした。

「そうか・・・。気に入ってくれてよかった。ありがとうルリ」

ほっとした様な顔で笑いかけられたのでしばらく見つめ合っていると店のスタッフの視線を感じた。


「あ、すみません」

結局買わないのにと思っていると

「いえ、今日は指輪を探されてたんですね」

「はい。でももう決めたので」

「大丈夫ですよ。婚約指輪お決まりでしたらよかったらですけど結婚指輪も当店もありますのでカタログだけお渡ししましょうか?」

「ありがとうございます」

そうしてスタッフから袋に入ったカタログを受け取る。


「あら、お客様の婚約指輪珍しい光り方をしているんですね。もしかしてこれは金ですか?」

「はい」

指輪は柔らかい虹彩をしている。

「これはすごい!確か竜の国には虹色に光る金があってとても高価な物と聞いた事があります」

「そうなんですね」

(そんなにすごい物だったのね)


「先代の宝石商はそれだけじゃない感じの力が宿っていそうだ。柔らかく虹色に光るなんてお守りになりそうだと話していました。

素敵ですね」


(そんな風に思われていたなんて)


そう言われると益々この指輪の事が誇らしくなった。


「はい。ありがとうございます」

店員さんの言葉が思いの外嬉しかった。




しかし、対してヴァーミリオンはどこかそわそわしている。


「あの・・・、ありがとうございました」

あまり金について詮索されるのはまずかったかしらと思い店員に言うと彼女に見送られ、店を後にした。


「すまない。場所を聞かれるとパルデールみたいな宝石商が金山に来るかもしれねえから助かった」

「この指輪ってそんなに貴重だったのね」


そういえば初めて会った時、竜の鱗と銀をルノワの教会に賄賂したって彼は言っていた。


(パルデールは竜は恐ろしいという理由で戦っていたけど目的は金山だったし思ってた以上にデ・シャールは宝の山だからこそ皆がこぞって狙うのね)


「結界また強めようかしら」

「竜族がそんな簡単に人には負けないぞ」

「クスッ、それもそうね」




(貴重なもの・・・だけど・・・)

ジッと嵌めている指輪を見ていると店員さんの言葉を思い出す。


「どうした?」

「ううん。店員さんにお守りって言われて嬉しかったから」

「そうだな。聖女にとっては強力なお守りだな」

その言葉はヴァーミリオンも嬉しかったのかニカッと笑って言った。


そうして私達は宝石店のあった並びのカフェでランチを食べ終わりひと息ついた。


「夕方まで時間があるけどルリ、行きたいとこあるか?」

「ええ。私どうしても行きたいとこあるの」

「?」


そうして彼は私の希望でデ・シャールに戻り、目的地まで彼の腕を引っ張っていく。

「行きたい場所って城(俺の家)かよ」

「てっきり家に来るって言ったから普通そういう意味かと思うだろ?」

「何?」

「ーーっ、なんでもねえ。気にするな」

どことなく彼は焦っているように見えた。


「突然お邪魔して悪かったわ。でも私どうしても職人さんに用があるのよ」

「職人?」

「ええ。私達の結婚指輪を作ってもらいたいの!」

この言葉にヴァーミリオンは頭を悩ます。


「そうだけど今日は婚約指輪買っただろ」

「確かに式はまだだけどヴァーミリオンにもせっかくだし指輪を付けてほしかったの」

「分かった。分かったよ」

「あのね、私こういうのがいいと思うの」



それからしばらくして指輪が完成した。

「確かにルリの好きなデザインで俺の分も作らせたんだけどなあ」

ヴァーミリオンはそれを見てまた頭を悩ませている。


「うん。やっぱりこれ!結婚指輪にはデ・シャールの金山の金を使わなくっちゃ!」

リングクッションにはヴァーミリオンが付ける金の指輪と同じデザインに小さなダイヤモンドが付いた私の指輪が完成した。


柔らかい虹彩を放つ金が更に美しく見える。


「まあ俺も気に入ってはいるけどよかったのかよ。これで?」

「ヴァーミリオンは本当に私でいいの?」

「は?」

「私が聖女だから気に入ってくれたのかなって・・・だから・・・」

気になっていた事を聞く。


「バカ、そんな事で悩んでたのかよ」

いつもの憎まれ口だ。


「何よバカってーー」

「でも!確かにルリが聖女なら出会ってなかった。

お人よしで騙されやすくて一生懸命なルリだからわざわざルノワで一芝居打ったんだ」


「!」

「テューを逃して、一緒にいてくれたルリに俺は惹かれたんだ」

そう言って彼は私の額にキスをした。


「そうだった。私あの後あなたに賄賂の末、拉致されたんだわ」


「言うなよ」

「いやよ。何気にルノワの教会の人の事かなり根に持ってるんだから」

「だからそれは悪かったってーー」

「嘘よ。まあ、あなたに会えたしおあいこよ」

思った以上に焦った彼をクスッと笑うと

「クソ・・・」

からかいやがってと言った彼は少し拗ねたみたいだ。


「で、攫われた本音はどうなんだ?」

浮かんでいる夕陽と同じ色の瞳の彼が笑いかけて問いかける。


当たり前だ。

「最高に決まってるじゃない!」

迷わず私はそう答えた。


ー完ー





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