12話 その頃のエライザ嬢とパルデール
翌週、久しぶりにパルデールからの侵略者が金山に入ろうとしたところ結界に弾き飛ばされたというニュースはデ・シャールとパルデールの両国に伝わった。
「すげえ!俺達が手を出さずにアイツら逃げ帰っていたぜ」
「さすがルリ様だな!」
金山を守っていたデ・シャールの衛兵から私の活躍は噂され、瞬く間に賞賛され教会はミサは毎週満員になった。
「シスター、ミサに来れば戦争、終わるよね」
小さいクルシュに問う。
「大丈夫よ。うちには強い聖女がいるんだから」
金山から教会に戻って来るとクルシュが
「今日、子供達にルリがついてるから大丈夫って話したわ」
と言ってきた。
「頑張ってよ。ルリ」
彼女はガッツポーズで励ましてくれる。
「もちろん!」
(絶対にパルデールからみんなを守ってみせるわ!)
しかし、一方のパルデールの衛兵は頭を悩ませていた。
「王子、お言葉ですが金山に向かわせるには人手が足りません!」
金山に攻め入る衛兵隊長は日々、負傷する隊員達を嘆かわしく思って王子に相談するがその声には恐れの感情が入り混じっていた。
「足りないなら補充するまでだ。
各領地から衛兵の応援をよこしてもらえ」
「ですが、それでも上手くいかなかった場合はーー」
衛兵隊長はそこまで口にするとしまった!という後悔が頭に浮かんだ。
「上手くいかないだと?
今、そう言ったな?」
「い、いえ!」
王子は衛兵隊長の指揮棒を奪い、彼の顔の前でそれを振る。
当然、隊長は精一杯それを避けて王子の怒りに触れた事を怯えている。
「いいか?
衛兵を育てるのは貴様の責任だ。
足りないなら見習いを早急に育てあげて戦場に行かせて場数を踏ませるのが仕事が出来る上官だろう?」
だからってまだ少年のような年頃の子まで戦地に向かわせるなんて無茶苦茶にも程がある。
反発したいがそれは王子の前、それは許されない。
「分かったら早く行け!」
王子に命令され、仕方なく衛兵隊長は隊員に指示を出す為に持ち場に返された。
時を同じく。
城ではメイド達が安堵の表情を浮かべ喜んだ。
「王子!エライザ様が!」
「どうした!?」
「エライザ様が目を覚まされました!」
「!それは本当か!?」
「はい!」
エライザは倒れていた中、夢を見ていた。
その姿は今より3歳ほど時が戻った格好だ。
(私はなぜこの格好なの?)
今より少しだけ地味なドレスに身を着ているエライザの前にして見知らぬ上流貴族の娘達の噂話が聞こえる。
「あなた、今日はなぜこの社交界に来たの?さっきからあなたの振る舞いを見ていたら私達が冷や冷やしてしまったわ。ねえ?」
「ええ。クスクス・・・」
(なんなのこの方達は?)
こんな侮辱は最近、受けた覚えはない。
(ああ、これは確か前の私。そんな時、私はあなたに出会ったのだわ)
学園のフラワーアートの大会でエライザは大きな賞を取って、それが注目を浴びたのだ。
国立美術館の広いスペースにそれは飾らせて、それは王や王子は賞賛の声を送り、受賞式では王子にトロフィーをもらった。
そこには社交界で悪口を言っていた令嬢達もいた。
「あの子、中流階級の子でしょ。調子に乗っちゃって」
「流石、階級が下だと審査員に媚びたんじゃない?」
王子の表彰され、舞台から降りて彼女達の前を通ると口々にそんな事を噂された。
そんな中、王子が通る声で
「私が素晴らしいと言ったんだ。君達もこの大会に応募したらしいが落選したらしいな」
と言うと彼女達の顔はサアッと青くなって、エライザは固まった。
(王子が私を庇ってくれた?)
「何はともあれ、おめでとうエライザ」
彼女達に皮肉を込めての激励だがそれがエライザは嬉しかった。
「よかった。私、ほっとしたわ。よかったわね。
やっぱり国の上に立つお方はよく分かっていらっしゃるわ。
エライザ、あなたも王子のような方になってね」
「はい・・・。はい!もちろんですわお母様!」
受賞式を見に来た母は家柄にコンプレックスを持っていた為この事をエライザと一緒に喜んだ。
それからエライザはより一層、勉強やマナーを身につけた。
な の に ーー
(どうしてあんな町娘が王子の隣にいるのかしら?)
先日現れたのは水魔法で竜に立ち向かう聖女、ルリだった。
(前の聖女よりも弱いかもしれないじゃない。これじゃあ、あの町娘も長くは持たないわね)
国には昔から聖女がいた。
それがしばらくするとまた別の聖女に変わっていた。
「聖女様、怪我を負ったらしいわよ」
「ええまた?代行できる聖女はいないの?
まだ竜は諦めてないかもしれないのに」
国には強い聖女が必要だ。
エライザもそれに憧れた1人だった。
(ああ、あんな町娘より私が聖女だったらアレク王子の隣に立ってもっと役に立つのに!)
エライザだって竜が怖くない訳ではない。
だけどルリを見ているとヤキモチ以外の不快さを感じる。
そんな中、ついにエライザに聖女の力が現れた。
願いを込めると手から火球が出る。
「間違いありません。あなたには聖女の力がございます。しかも類をみない強い力だ」
司祭の言葉にエライザは胸が躍った。
(やった!これで私がアレク王子の隣に立てる!
絶対あの町娘よりも活躍してやる!)
「いや、私の方が力はあるじゃない。ーーふふっ」
(絶対あんな町娘になんか負けるもんですか!!)
エライザの夢はここで覚醒した。
「あら?私ずっと寝ていたのかしら?」
ここは城のエライザに貸し与えられた部屋だ。
「!エライザ様が目を覚ましました」
慌てて喜ぶメイドにエライザは挨拶をした。
「随分長く休んでしまって。気を失っている間に皆様の看病のおかげか前より楽になりましたわ。
子どもの竜の攻撃だったから無事だったのかしら?」
エライザ自身も巨大な竜なら勝ち目はなかったと思っていたみたいだ。
だが強い力を持った聖女だからか時間はかかれど奇跡的に回復した。
「こうしちゃいられないわ」
立ちあがろうとするとメイドに止められる。
「エライザ様!まだ大人しくしていて下さい!」
「心配無用と言ったはずよ!早く支度をして。
王子と話をしなくては!」
「ですがーー」
エライザは納得しようとしないメイドをキッと睨む。
「・・・分かりました」
「本当にもう動けるのか?」
広間に現れたエライザにアレク王子は無事かと詰め寄る。
「王子、ええ、お待たせしてしまい申し訳ありません。
私はいつでも戦えますわ!」
こうして怪我から完全復活したエライザは忌まわしい竜の駆逐をまた新たに胸に誓った。
「金山に新たな結界が貼られて我が兵達が痛手を負っている」
「何ですって!?一体誰が?」
「分からない」
結界を貼るには聖なる力が必要だ。
「私と同じ聖女があの竜の国にいるという事かしら?」
「デ・シャールには聖女はいなかったはずだ」
「ですがこれは新たに力がある者が誕生したという事になりますわ」
誰かがパルデールを脅かしている。
「エライザ、協力してくれるか?」
アレク王子は君だけが頼りだという表情で彼女を見つめた。
「はい。
いつでも出陣できますわ」
王子に頼られて断る理由なんてない。
今までは弱った竜ばかりのデ・シャールには勝てると踏んでいた。
しかし、アレクもエライザも新たな聖なる力を持つ者が誰なのか気掛かりだ。
(さあ、どんな方?
竜の国なら竜に聖なる力が芽生えたって事かしら?)
「見ものだわ。私も常に本気で挑まなきゃいけませんわね」
エライザはため息を吐き、扇子を閉じた。
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