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猫舌彼女と淹れたてコーヒー

作者: 倉科さき

「今日、時間ある?」と突然の連絡。突然ではあるものの、見慣れた文面だ。

「うん。うちおいで」もうお決まりになった返事を送信して、彼女を待つ。


 少しするとチャイムが鳴って、俯いて顔を強張らせて立っている。それには言及しないでそのままリビングに連れて行って、ちょうど淹れたてのホットコーヒーをだしてあげる。


「ごめんね。淹れたてだからちょっと熱いかも。冷めるまで俺の話でも聞いてくれないかな」


 小さく頷いたのを確認して、最近の話をする。友達と遊んだ話、たまたま行ったカフェが良かった話、課題の締切ギリギリになって思い出して焦った話。そんな取り留めもない話を面白おかしく話す。こわばっていた顔が少し緩む頃には、コーヒーも丁度いい温度になっている。


「それで、そっちは最近どんなかんじ?よかったら聞かせてくれない?」


 目をあわせないで、なんでもないことみたいにおねがいする。あくまで何も気づいていないていで。

 晩ごはんがおいしくできた話や教授の面白い口癖の話をしてくれるから、俺も食べたかった、とか教授って変わった人多いよね、とか相槌を打って、ほかには?と尋ねる。


「別に面白いことじゃなくてもいいんだよ。ただ、君のことをしりたいだけだから」


 ゆっくり目を合わせて笑ってみせると、へにゃりと眉が下がる。目が少しうるんで、唇を震わせながら、ぬるくなったコーヒーを飲んで、ようやく口をひらく。


「あの、ね。授業が難しくて、みんなわかってるのに私だけわからなくてね。この前出した課題もひどい点数だったし、もうわたし、だめかもしれない。自分で選んだ大学なのに、授業なのに、まだ始まったばっかりなのにこんな有様じゃ、卒業できないかも。みんなにも呆れられて、嫌われちゃったらって思って、苦しいの」


 袖で涙を拭いながら、子どもみたいに泣きじゃくる彼女。本当に、甘えるのが下手だなあ。そんなところも可愛いけれど、もっと頼ってくれればいいのに。


「心配しすぎだよ。一回課題の点数がよくなかったくらいで単位がもらえないなんてこと無いと思うし、慣れない環境なんだからしょうがないよ。友達とか教授に聞いてみてもいいと思うし、俺のサークルの先輩で同じ授業取ってる人居ないかきいてみてもいいしね。君は頑張りやさんだから、一人でしなきゃって思い詰めちゃう気持ちもわかるけども、もっと周りを頼っていいんだよ。もちろん、俺にも」


 しゃくりあげながら頷く彼女の背中を撫でる。落ち着くまでそうしていると、だんだん耳が赤くなってきてそっと離れていく。やっと今の状況を理解したらしい。


「その、いつもごめんね。わたし、こどもみたいに泣いちゃうし、いっぱい気を使ってくれてるの、わかってる。頼りたいけど、迷惑かけたくなくて、どっちつかずな態度とっちゃってるせいでもっと迷惑かけちゃってるのも」

「甘え下手なところも含めて君の魅力だと思ってるし、なんならもっと迷惑かけてほしいくらい。もしそれでも気にしちゃうなら、こんなに思いつめるより前に相談して欲しいかな。そのほうが君も苦しくないでしょ」


 そう思っているのは本心。だけど、普段外ではしっかりしている彼女が無防備に泣き顔を見せてくれるのも、ちょっとアリだと思ったりしている。もちろん本人には言わないのだけれど。


「ほら、冷めちゃったしコーヒー淹れ直して、ケーキでも食べない?丁度チーズケーキが二切れあるんだけど」


 彼女が好きなチーズケーキを出すと、ようやく笑ってくれる。君のその笑顔が好きだから、そのためなら何でもしてあげたいんだよ。


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― 新着の感想 ―
寒いこの時期に暖かいコーヒーが登場するストーリーを読めて、小春気分になれました。甘いストーリーをありがとうございます。
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