祈り捧げる貴方様に
今日も貴方様に祈りを捧げる。
名も知らぬ、云われも知らぬ貴方様に。
貴方様は何も語らぬ。
貴方様は何も動かぬ。
ただそこに、ジッと静かに着座している。
もはや貴方様に祈る者は他におらず、私が最後の一人となりました。
他の者は、明日を夢見て旅立ちました。
その夢が、他人から与えられたものだと気付かずに。
その夢が、己を幸せにするものではないと気付かずに。
それでも私は構いません。
人の人生にケチつけるものではありません。
遅かれ早かれ、こうなる定めだったのでしょう。
お社が荒れようが、お寺があれようが、お墓が荒れようが。
今は全く構わない。古いものは切り捨てられるのです。それよりも、大事なものがあるからといって。
それは、私も同じこと。
遥か昔からある貴方様。
云われも知らぬ貴方様。
我が祖霊と、我が子孫が礼を失しました。
祖霊は子孫に貴方様をお伝えしませんでした。今や祖霊自身も、忘却の彼方に置かれつつあります。自業自得でございます。
子孫は貴方様を魔物の類と決めつけ、見捨てていきました。近く、どこかの方々と一緒に貴方様を壊しに参ります。不届き千万でございます。
今がよいのでしょう。今さえよければよいのでしょう。「継」を忘れた哀れな子孫には、もはや慈悲の恩恵は降りません。
それでも貴方様は怒らないでしょう。罰する心も起こらないでしょう。貴方様はいつだってそうなのです。
定めを受け入れる。その受容の精神にただただ尊崇するばかりです。
しかしながら私は悔しい。
貴方様を失うことに。貴方様の名を知らぬことに。貴方様とともに滅びれないことに。
貴方様を、お守りできなかったことに。
名も知らぬ貴方様よ、もしも我がまま叶いますならば、我が魂を貴方様のもとへ――――
終わり