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醜いアヒルの子の娘  作者: 香田紗季


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14/19

王宮1

読みに来てくださってありがとうございます。

短い分量をこまめにアップしてみたいと思います。

2日に一回はアップしたい……努力します。

よろしくお願いいたします。

 教室棟ではパーシーが、それ以外の所ではジョシュアがエイヴァを守るようになって、エイヴァは勉強に集中できる環境が整ったと思っていた。


 だが、ジョシュアもパーシーも、もちろんエイヴァも、誰もが思ってもみなかったことが起きた。


 一つ目は、王孫殿下がエイヴァの顔を見にわざわざ領地経営科1年Aクラスにやってきたことである。王孫とはいうが、国王が祖父セオドアと同世代、王太子がマデリン・アイザック・ベンジャミンと同性代なのである。王太子の長男足る王孫殿下は、代替わりの暁には同時に立太子されることが決まっている、そういうやんごとないお方である。


 政治科の3年教室から将来の側近候補たちを引きつれてやって来た王孫殿下に、エイヴァはひたすら恐縮した。本来ならお目見え以下の子爵令嬢である。いくら将来の子爵と言えども、わざわざ王孫殿下自らやって来たのだ。エイヴァはただひたすら頭を下げ続けた。


「私はエヴァンス嬢の顔を見たくて足を運んだのだが」


 そう言われてしまえば、顔を上げるほかない。ちらりととなりのパーシーに顔を向けると、同じような高さにあったパーシーの顔が、諦めろ、と言っていた。


 仕方なく顔を上げると、そこには「王子様顔」ではない王孫殿下が立っていた。


「王子と言うより、騎士団長だって顔をしているな」


 読まれた。


 いつもは読む側にいるエイヴァは狼狽した。読まれたことなど初めてだ。


「気にするな。よく言われるんだ。エヴァンス嬢は子爵よりも父君に似ているのか?」

「はい、そのように聞いております」

「そうか。実は最近エヴァンス書庫の閲覧許可がなかなか出なくてな、王宮も困っているのだ」


 きっとマデリンが仕事をさぼっているに違いない。書庫に関する仕事しかマデリンに残していないはずなのに、それさえ滞るとは、何かあったのだろうか?と少し不安にもなる。


「その辺りのこともあって、お祖父様がエヴァンス嬢と話をしたいと仰っている。急で申し訳ないのだが、今日帰りに王宮に来てもらいたい」

「きょ、今日ですか?」

「何か不都合があったか?」

「いえ、制服のままでよろしいのでしょうか?」

「正式な謁見ではない。お祖父様の話し相手をしてもらうだけだから大丈夫だ。私の馬車の後に続いてきてもらう形になるので、休憩中に調整をしておいてもらいたい」

「か、かしこまりました」


 王孫殿下の存在は知っていたが、その姿も名も知らないエイヴァは冷や汗をかいた。


「エイヴァ、昼休憩は忙しくなりそうだね。マーシャルのお祖父様にも伝えないといけないだろう?」


 既に敬称なしで呼び合うほど、二人は友だちになっていた。


「お祖父様も王宮に来るかもしれないわね。それならそれで安心なんだけど、それよりも……」


 エイヴァの瞳が揺れている。


「私、王宮内の作法なんて……本で読んだことしかないわ。どうしましょう」

「淑女科なら授業でやるんだろうが、領地経営科でマナーを学ぶのはもうすこし上の学年だもんな。グレイ先生に聞いてみようか」

「うう……お母様が仕事しないのがいけないのよ!」


 恨み辛みをここにはいない母にぶつけながら、エイヴァは授業の合間に祖父宛の手紙を書き、昼休憩の時にそれをジョシュアたちに託し、グレイ先生を通して淑女科の先生に簡単なレクチャーをしてもらってた。


「お昼食べそびれちゃったわ」


 付き合わされたパーシーは、もうエネルギー切れでヘロヘロになっている。


「こんなものしかないけれど、何もないよりはいいでしょう。食べて」


 エイヴァはバッグの中からそっと小さな包み紙を出した。パーシーが包みを開くと、飴が二つ、入っていた。


「これ、領地で作らせたものなの。ミントを練り込んだことで、馬車の酔い止めになるのよ」

「わかる、スースーして、リフレッシュできる。ありがとう、エイヴァ」


 観光用のハーブガーデンを作り、薬用と食用、それに観賞用に分けて育てさせるという実験をした村があった。ミントは繁殖力が強く、畑はあっという間にミント畑になった。最初は喜んだ村人たちだったが、やがてミントが他の畑を浸食するようになると苦情が出始め、慌てたエイヴァが地植えを禁止して鉢植えにすること、花を咲かせないこと、種を放置しないこと、いくつかの方策によってようやく増殖を押さえ込んだ苦い経験がある。繁茂しすぎてどうにもならず、ミントティー以外に何かないかと探して商品化したものの一つが、ミントキャンディーだった。


 失敗して、改善して、またうまくいかなくて、やっと一筋の道が見えて。


 領地経営は面白い。だが、領民の命や財産に迷惑を掛けられない。確実に利益を上げ、領民を富ませる必要があるのだ。その分難しいし、責任も大きい。こじんまりと商会を立ち上げるのとは違うと言うことを、エイヴァはベンジャミンからも教えられていた。


 準備不足のままエイヴァを乗せた馬車は王孫殿下の馬車に続いて王宮に入っていく。


 無事に生きて帰れますように。


 エイヴァは王宮の門をくぐる時にそう願った。

読んでくださってありがとうございました。

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