エイヴァからの手紙
読みに来てくださってありがとうございます。
短いです。ごめんなさい。
ここから少し話が変化するため、月・木更新とします。次回は9日木曜日です。
よろしくお願いいたします。
「 お祖父様へ
この年まで手紙もカードもやりとりできなかったことを、まずお詫びさせてください。
私はずっと行動を制限され、当主教育の名の下に睡眠時間が2時間しかないような生活を送って参りました。身につけたものはそれなりに多うございますが、そのために私は友人を一人も持てませんでした。貴族として、エヴァンス子爵家を将来継ぐ者として、横の繋がりを持たせていただけないことに大変危機感を持っております。
また、先日は母の怒りに触れて金属製の釘のようなものを仕込んだ鞭で打たれ、ひどい怪我を負ってしまいました。この傷はおそらく残るとお医者様から言われてしまいました。王都から遠いエヴァンス領に入り婿で来てくださる方はなかなかいないと聞きました。お母様がお父様に縁談を持ちかけたのも、お父様の縁談がまとまりにくいのを見越しての話だったと聞いております。その上、私にはこのように体に傷ができてしまい、よい縁談は望めないと思います。もし縁談がまとまるならば、それはお母様の意向に沿って行われるものであり、それなりの欠格事項をお持ちの方と推測します。私の気持ちなど関係なく、たとえ政略結婚であってもお互いを尊敬できないような結婚が幸せなものにならないことを、私は両親から学びました。
さらに、お母様は男を引き入れ、その男に金を渡すために税収をごまかし、使用人にふさわしいだけの給金も払っておりません。エヴァンス書庫に関する仕事は熱心に取り組まれますが、それ以外のことはむしろ害悪の元となっております。
そこで、お祖父様にお願いがあります。私と、護衛と、専属侍女の三人を、お爺様の元で保護してください。そして、保護者変更の手続きをお願いしたいのです。王都の学園で教育を受ければ、横の繋がりもできましょう。偏っていた知識もあるべき姿に戻ると思います。そして、お祖父様の手で、どうか私の婚約者を決めていただきとうございます。
今、私は鞭で付けられた傷の治療を兼ねて、護衛であるジョシュア・ミルズ男爵の邸におります。お爺様がいらっしゃる所はそれほど遠くないと伺いました。どうか私を保護してくださいませ。1日も早く、一度もお会いしたことのないお祖父様とお祖母様にお目にかかりとうございます。
エイヴァ・エヴァンス」
セオドア・マーシャルは老眼鏡を外すと片手で両目を覆った。状況はジョシュアやベンジャミンから聞いていたから、エイヴァがどんな思いでいるのか、じっとしていられない気持ちを無理矢理抑えつけてここまで来た。だが、まだもうじき13歳のエイヴァから、これほど感情が感じられない手紙を直接もらってエイヴァの心の傷の深さを思うと、アイザックとエイヴァという二人の人間を、自分の甘い考えで苦しめてしまったのだという罪悪感でこの身がズタズタに引き裂かれそうだった。
「エイヴァから手紙が来たと聞きましたが」
「ああ、デリラ。直ぐにエイヴァたちを迎え入れるから、準備して欲しい。それから、傷の治療で評判のよい医者を知らないか?」
「何かあったんですか?」
「エイヴァが、拷問用の鞭であの女に打たれた」
「何ですって!」
デリラは生粋の貴族女性だ。一度も会ったことがないとは言え、拷問用の道具を孫娘に使われたと知って怒っている。
「かならずよいお医者様を手配しましょう」
「ああ。それから、侍女一人と、ジョシュアの部屋も」
「ジョシュアでいいんですか?」
「同封されていたジョシュアと侍女からの手紙には、エイヴァがジョシュアの手を取ったと書いてある」
「エイヴァ自身が選んだのね?」
「まあ、選択肢がない中で選んでいるからな。エイヴァの心が変わったら、その時はその時だ」
「ですが、グラハム伯爵は……」
「何とかする。とにかく、今は急いで迎えに行かせるから、準備を頼む」
「分かりましたわ」
デリラの足取りが軽く聞こえたのは気のせいではないだろう。セオドアとデリラには娘がいなかった。次男アイザックは妖精の取り替え子で十分に接することができず、心を込めて育ててきたベンジャミンは平民の子として出ていってしまった。長男ライアンは結婚したが、未だに子どもはいない。娘を着せ替え人形にしている友人たちをうらやましがっていたデリラのことだ、きっとエイヴァは専用の着せ替え人形になることだろう。
これからはアイザックの分もしっかりエイヴァを守る。セオドアはジョシュアに手紙を書き始めた。
読んでくださってありがとうございました。
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