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第4章


「何故メラニー様のような素敵な方が、あのような方をお慕いしているのか理解できません」

 

 ある日ティファがそんなことを呟いた。しかしすぐに、不躾なことを申し上げてすみませんと、慌てて謝罪した。

 ところがそれを聞いたエディスは笑みを浮かべた。普段は愛らしい顔の割にはしっかり者で、滅多に感情を出さないティファが、素直に感情を吐露したので、余計に可愛らしく思えた。だからエディスの方も素直に真実を述べた。

 

「姉上は初めて顔合わせをした時から今に至るまで、一度たりとあの婚約者を好きになったことはないですよ」

 

「えっ?」

 

「姉は少しでも良好な関係を築こうとしてハーリー様の手伝いをしているだけですよ。ただの義務感。

 これまで正確な名前で呼ばれたことはないし、使用人以下の扱いをされ続けているんです。

 贈り物だって、彼自身からもらったことなど一度もないのですよ。

 こんな扱いをされても婚約者を好きでいられるご令嬢がいたら、是非ともお目にかかりたいものですよ」

 

「酷いです」

 

「なんでも名前は単なる識別番号と同じだから、大した意味を持たないというのが彼の持論だそうですよ。

 そのくせお気に入りの杖には『()()()()()()()()()()()()()()()』という長い名前をつけて、毎日呼びかけているそうですよ」

 

「最低ですね。でも、それなら何故……」

 

「どうして姉上が婚約を解消しないのか?ですか?

 それは父が許してくれないからです。ハーリー様の父上とは趣味仲間で親友なんだそうです。

 だから、子供同士が結婚することで縁続きになることを望んでいるのです」

 

「メラニー様のお幸せは?」

 

「考えていないんでしょうね」

 

「・・・・・」

 

「僕は姉をあの男から解放するつもりです。どんなことをしても」

 

 エディスがこう言うと、ティファはバッと顔を上げて彼を見つめるとこう言った。

 

「私にも手伝わせて下さい。私もメラニー様のために何かをしたいのです」

 

 と。

 

 

 しかし二人の『メラニーとハーリーを婚約破棄させる作戦』が本格的に実行に移されたのは、その後一年以上経ってからだった。

 というのも、メラニー本人がこう言ったからだ。

 

「ハーリー様と婚約解消したいとお母様にお願いしたの。

 そうしたらね、私以外にハーリー様に恋人ができたり、二番目ならともかく、三番目の存在になったら、どんなことをしてもお母様が婚約を解消してくれると約束して下さったの。

 だから婚約解消されても、一人で生きて行けるように、ハーリー様の世話をするのはやめて、これからは自分磨きに励むことにしたの。

 今まで心配かけてごめんね。これからはエディスも自分のことだけを考えてね」

 

 それを聞いたエディスはニンマリした。そうか、慌てることはないのか。

 ではゆっくりと時間をかけて完璧な計画を立てて、実行しようと。

 そしてそれをティファに伝えると、瞳をキラキラさせて手伝わせて欲しいと言ってきたのだった。

 

 

 ✽✽✽✽✽

 

 

 母親が家を出てから半年後に父親が本宅である屋敷に戻ってきた。

 伯爵は魔道具好きな仲間といるより妻や子供達といることを選んだのだ。

 妻が出て行った後でそんなことをしてもまるで意味がないのに。自分が屋敷に戻れば妻も戻るとでも思ったのだろうか。

 

 しかし現実は甘くなかった。結局ローゼット夫人は帰ってこなかった。しかも夫人が家を出てから間もなく娘メラニーまでもが母親の元へ行ってしまった。そして残っていた息子エディスまでもが学園の寮に入ってしまった。

 それ故伯爵の環境は別宅に住んでいた時と何もかわらなかった。住む場所が別宅から本宅に移ったというだけで。

 

 また元の一人に戻ったジルドレは寂しさを紛らすために、魔道具作りを再開させた。

 それでも彼は、一度抜けた魔道具同好会に再び入ることはなかった。既にその場所は、彼にとって自分の愚かさの象徴となっていたからだ。

 

 彼は今まで家庭生活を顧みなかったことを死ぬほど後悔した。結婚をしてからもう十五年以上経つというのに、妻のこと、子供達のこと、己の家族のことを何一つ知らなかったのだから。

 そして詫びようにも何をどう謝罪すればいいのかも皆目わからなかった。

 

 それでも思いつくことは実行しようと思った。

 今は生き生きと仕事をしている妻をこのまま自由にさせること。

 息子の将来には口を挟まず、彼に自由に決めさせてやること。

 そして娘が嫌がっている婚約を解消してやること。

 

 しかし、娘の婚約破棄はそう簡単ではなかった。これまでジルドレはハーリーの行動や行為を容認していた。それなのに今さらそれを理由に婚約解消を要求することは難しかったからだ。

 このまま解消できなかったら、娘や妻に一生恨まれるるだろう。そう思うとジルドレは居ても立っても居られなくなった。

 なんとかしなければ、とそればかりを思い悩むようになった。

 

 そしてそんな苦しみから少しでも逃れるために、彼は魔道具製作に熱中した。そんな中で完成したのが、空中浮遊機の『ターブル』だった。

 

 そしてその『ターブル』を見た瞬間、エディスはパッと閃いたのだ。姉のメラニーとハーリーの婚約を解消させる方法を……

 読んで下さってありがとうございました!

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