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別の世界ではただの日常です

例の交通機関

作者: 茅野榛人

 朝になると必ず聞こえて来る悪魔の音、単純に言えば、目覚まし時計の音で、俺を遅刻させまいと、懸命に鐘を打ち鳴らし、私に伝え、起こそうとする。

 しかし俺は、そんな目覚まし時計に屈するような睡眠はしていない。

 その為、俺は毎回家を出る時間に起きられない。

 今俺は、暗い顔をしながら地下鉄道に乗り、会社を目指している。

 一体俺は、何時になれば遅刻をしない人間になれるのであろうか。

 いっその事、自分専用の地下を走る電車を手に入れて、誰よりも早く会社に向かいたいものだ。


 休憩の時間、会社の同僚と話をしていた時、信じられない会話をした。

「お前、いつもは数十分の遅刻するのに、今日は二時間以上も遅刻って、なんかあったのかよ……」

 二時間以上? 今日も前に遅刻した時と大して変わらない時間に家を出て、遅延も一切起きていない地下鉄道に乗り、前と大して変わらない時間に出勤したのだが……。

「え? 俺いつもと大して変わらないルーティンだと思うんだけど……」

「いやいや、今日は昨日とは比にならない位遅刻してるよ? ってか大して変わらないルーティンとか言ってるけど、そのルーティン早く直せって!」


 今日は何かがおかしい……。

 始業時刻が信じられない位に前倒しされていた。

 その為いつもよりも早く帰宅することが出来た。

 一体、何時から就業時間が変更されたのだろうか。

 それに俺は噂も話も一切聞いていないのだ、違法では無いのだろうか。

 一体全体どうやって会社の人達は就業時間変更の事を知り、馴染んでいるのだろうか。

 帰宅すると、パンパンになっているドアのポストから、封筒が一枚零れていた。

 ポストの管理は長らくしていない為、滅茶苦茶になっている。

 俺は零れていた一枚の封筒を拾い上げ、何となく確認してみた。

 その封筒は会社からのもので、届いたのは数日前だった。

 中身は一枚の紙だけで、紙に書かれていた内容はこうだった。

『例の交通機関開通に関しては、他言無用にして頂きます』

 文章はこれだけだった。

 あまりにもシンプル過ぎた為、少々気味の悪さを感じた。

 例の交通機関開通……。

 最近新たな交通機関が誕生、開通したなどと言う話や噂は、一切聞いていない。

 ニュースやSNSでも見たことが無い。

 例の交通機関とは……一体何を指しているのだろうか……。


 翌日、休憩の時間にこっそりと同僚に話をしてみた。

「おい……ちょっと聞いて良いか?」

「え? 何をだよ?」

「あの……例の交通機関って……」

「しー!」

「え? ああ……分かってるよ俺も……でも……何も分からないんだよ……例の交通機関……」

「言うなって! 何が分からないんだよ? まさかカード失くしたか?」

「いや……別にカード類は失くしてない……ってか……カードって?」

「……お前さ……いい加減にして……リスクを背負ってお前の話聞いてあげてるんだろうが」

「ごめん……」

「あの……兎に角さ……この話は……一切口にしないで……」

「……分かった」

 全く情報が得られなかった。

 しかしそれも当たり前と言えば当たり前だ。

 何しろ……他言無用だからな……。

 しかし同僚なら話してもらえるのではないだろうかと、期待していた自分がいたのだ。


 就業時間が変更されてから暫く時間が経過した。

 最近、目の下のくまが酷い。

 就業時間が変更され、生活リズムが大きく崩れてしまったのだ。

 しかし上司に聞いてみた所、不思議な事に、就業時間変更に関する手続き等は全て正当に行われたらしい。

 俺は何一つとして記憶が無いのだが……。

 更に俺はもう一つ不思議に思っている事がある。

 会社の出入り口を利用する社員がいなくなってしまったのだ。

 いつもなら、そこそこな人数が出入り口にいるはずなのだ。

 しかし最近は、出入り口を利用する社員は俺だけと言っても過言ではないほどにいない。

 一体他の社員達は、どこから入り、そして出て行くのだろうか。

 これらの不思議な点を見て俺は、気色の悪さと恐怖を覚えた。

 そしてやはり尾を引いているのは、例の交通機関だ。

 一体……例の交通機関とは……何なのだろうか……。


 就業時間を終えて、何の変哲もないように見える壁に専用カードを十秒以上かざし、ロックを解除して扉を開けた。

 しっかりと扉を閉め、地下深くに続いている階段を下りて、改札口に電子マネーをかざして通り、ホームに到着した。

 呼び出し装置に自宅の番号を打ち込もうと横の路線図を見た時、ある路線が目に留まった。

「あ……まだ更新されてない……Eの自宅の路線……三十四番か……」

 実は一昨日、Eはあまりにも酷い遅刻を何度もしてしまい、会社をクビになったのだが、まだ路線は生きているようだった。

 俺は思った。

 もしまだ路線が生きているのであれば、今から電車を呼び出して、Eの自宅に行けるのでは無いか、そして、Eに会う事が出来るのでは無いか。

 無性に気になったので、試してみる事にした。

 Eの自宅の駅の番号を確認した後、横の呼び出し装置に三十四と打ち込み、送信した。

「間もなく一番線に、三十四番の電車が到着します。黄色い線の内側にお下がり下さい」

 送信から一分後、アナウンスが鳴り、電車が到着した。

 俺は電車に乗り、三十四番の駅を目指した。

 初めて俺の自宅に向かう電車とは別の電車を呼び出し、乗車した。

 一分後、電車は三十四番の駅に到着した。

 改札口に電子マネーをかざして通り、階段を上った。

 天井にあるハッチに専用カードをかざし、ロックを解除してハッチを開けた。

 しっかりとハッチを閉め、Eの自宅のインターホンを押した。

「E、いるか? Cだぜ」

 返答がない。

「だらしないな……」

 溢れているポストを見つめて思わず口に出てしまった。

 しかしそのポストに詰め込まれているものの中に、ある封筒があるのが見えた。

「E……お前……まさか……」

 その封筒は、社用交通機関の概要と、専用カードが入っている封筒だった。

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