十円店
「犯人がわかってすっきりしたね」
「おばあちゃん早く退院できると
いいわね」
「さあ 今日こそ宿題やろうぜ」
三人はテーブルの上にドリルや
プリントを並べた
「いや まだひとつ疑問が残ってる
届かなかった真ん中のピースは
数字が61だということは
簡単にわかる
だからなくてもいい
でも手紙とピースの送り主は誰だ」
「誰だと思う?」
三人の目が語っていた
「俺たちのことをよく知っていて
暗号のこともちょっとだけ知っていて
あんなもの作れる暇なひと」
ネコちゃんはそこまで言って
はたと気付いた
「おっ ジグソー探偵団
集結しとるな」
「やっぱりお父さんか」
「へへっ
お前たちが暇を持て余してるから
娯楽を提供してやろうと思ってな」
「娯楽って
お蔭で宿題ぜんぜんできなかったよ」
「宿題? 夏休みの宿題か
そんなもの真面目にやるこたぁねえさ
自慢じゃないが
俺なんか一度もやったことねぇよ
うわっはっはっ」
「今の人 ほんとに
ネコちゃんのお父さん?」
しぶ樽が耳元でささやいた
「うん 一応そのつもりで
11年間付き合ってきたけど
時々よくわからなくなる時がある」
「ネコちゃん
算数のドリルやってよ
そしたら僕たち答えだけ写すからさ」
「え~っ そんなのずるいよ」
「自由研究で鉱石ラジオ作りたいって
言ってたでしょ
必要な部品
うちの店から持ってきてあげたよ」
ニヤニヤしながら姫は優しく脅迫した
ああじゃこうじゃと言いながら
四人の夏休みは終わった
新学期が始まってひと月ほど経ち
子供たちの日焼け跡が薄れてきたころ
駄菓子屋『十円店』が再開した
ラベルをホチキスで留めた
小さなビニール袋が
床から天井まで
狭い店内の壁一面を埋めていた
袋の中は おはじき、ビー玉、
メンコ、ベーゴマ、ふうせん、
しゃぼん玉液、あめ玉、
ラムネ(液体ではない方)
どれも一つ十円だった
だから 『じゅうえんみせ』
ゲームに夢中な令和の子供が見たら
ゴミみたいな物ばかりだが
「今日はなに買おうかな」
昭和の子供たちにとっては
ちょっとワクワクする店だった
間口一間で奥に向かって細長い店内に
子供たちの笑い声があふれ
ばあちゃんが
優しい笑顔で店番していた
ドンドン商店街に平和が戻った