真犯人
長寿庵の女将さんが
四人に冷たい麦茶を持ってきた
「これかしら?
お饅頭が入っていた箱よ
あら あんたもいたの?
麦茶四つしか持ってこなかったわ」
ロクエモンに気付いた女将さんは
ちょっと困った
いつの間にかゴエモンの隣に
ロクエモンがちょこんと座っている
「いいよ 俺のをやるから」
珍しくゴエモンが
兄貴らしいセリフを吐いた
女将さんから箱を受け取ったネコちゃんは
「ありがとうございます」と言うが早いか
待ちきれないといった様子で箱を裏返した
「外はもう暗いから
帰り道は気を付けてね」
女将さんは逞しい足音を響かせて
階段を下りていった
「ダメだ」
ネコちゃんは肩を落とした
「何がだめなの?」
三人が同時にネコちゃんに顔を向けた
ロクエモンはキョトンとしている
「饅頭の賞味期限とか原材料名の
書いてあるシールが 箱に
貼ってあるんじゃないかと思ったんだ
あぁ 饅頭が一つでも残ってたらなぁ
包み紙にもきっと
貼ってあったに違いない」
ロクエモンの様子がおかしい
さっきからもじもじしている
「どうした ロクエモン」
「あのぉ …」
「なんだ どした」
「ぼく もってる」
「持ってるって 何を」
「おまんじゅう」
「おまんじゅ…
お前 饅頭まだ食ってなかったのか」
「ふたつもらって ひとつたべた
だから まだひとつもってる」
「見せろ 今すぐ出せっ」
ロクエモンは
上目遣いにネコちゃんを見た
「ちゃんと返してやるから
早く出せっ」
ゴエモンに促されて ロクエモンは
渋々ポケットから饅頭を取り出した
だいぶつぶれてはいたが
辛うじて原形を留めている
饅頭の裏に
あった
『原材料名 砂糖、小豆、そば粉、
小麦粉…』
饅頭を返すとネコちゃんが言った
「それ 早く食ったほうがいいぞ
賞味期限は今日までだ」
慌てて口に放り込んだ饅頭が
喉につかえたロクエモンが
目を白黒させている
しぶ樽が背中を優しくトントンして
自分の麦茶を飲ませてやった
その様子を目で追いながら
ネコちゃんは事の顛末を
頭の中で整理した
「これでわかった
ばあちゃんは饅頭に入ってた
そば粉にやられたんだ」
「じゃあ 犯人は清さんだね」
「いや そうじゃない
犯人は そば粉だ」
「ばあちゃんが蕎麦アレルギーなんて
清さんは知らなかった そして
土産に買った饅頭に
そば粉が入っているなんてことは
考えもしなかったろう
ばあちゃんも
そば粉が入っているとは知らず
饅頭を食べてしまった」
「饅頭に目がくらんだか」
「ばあちゃん甘いもの好きだもんね」