死の接吻
「ピーナツアレルギーの
20歳の女の人が
ボーイフレンドとキスした後
アレルギー反応をおこして
呼吸困難になって
死んじゃったんだって
ボーイフレンドはキスする前に
ピーナツバターサンドを食べてたんだ
そんな話をテレビでやってた」
アレルギーと聞いて
色白の頬を紅潮させた姫が
一気にしゃべった
「死の接吻 と 呼吸困難 か
呼吸困難 ばあちゃんと同じだ
でも蕎麦は?
なぜ ばあちゃんの口に
蕎麦が入ったんだ」
ネコちゃんの眉間に再びしわが寄った
「ばあちゃんは うちの蕎麦
食べてくれたことないけど
なぜだろうって
小さい時から思ってた
そういう理由があったんだね」
納得顔のゴエモンがうんうんと頷いた
「うちの蕎麦を一番たくさん
食べてくれるお客さんといえば
何といっても
八百屋の清さんだ
いつも大盛り食ってる」
「じゃあ
清さんとばあちゃんがキスしたの?」
姫はますます頬を紅潮させている
「まさか
このまえ 蕎麦の食べ歩きするって
長野をドライブしてきて
みやげに買ってきた饅頭を
近所に配ってた」
それを聞いたネコちゃんはハッとした
「その饅頭
ばあちゃんにもあげたのかな?」
「さあ たぶんあげたんじゃない」
「お前んちにも配ったか?」
「うん 蕎麦食いに来た時 置いてった」
「その饅頭 まだあるか?」
「もう食っちゃったよ
あっ でも
饅頭の箱ならあるかもしれない
『あら綺麗な箱ね』とか言って
母ちゃんがどこかにしまった」
「よしっ 長寿庵 行くぞっ」
訳も分からぬまま
三人はネコちゃんの後につづいた
薄暗くなった商店街を
長寿庵に向かって歩きながら
ゴエモンは姫に尋ねた
「ねぇ 姫 ネコちゃんって
どうして『ネコちゃん』なの?」
姫は懐中電灯を振り回しながら答えた
「あぁ 僕 同じクラスだったから
憶えてる
4年生の時
国語の時間に作文を書かされたんだよ
ネコちゃんは お父さんとお母さんの
夫婦喧嘩のこと書いて
みんなの前で読んだんだ
『夫婦喧嘩は犬も食わないというが
うちの夫婦喧嘩は猫も食わない』
あの頃ネコちゃんは猫を飼ってて
とっても可愛がってたんだ」
「だから『ネコちゃん』か
『夫婦喧嘩は犬も食わない』
初めて聞いた 俺 そんな言葉」
「うん 僕もその時初めて聞いた
先生が苦笑いしてた」
「ニガワライ?」
「うん こんな顔」
美少年がクシャクシャになった