手紙
けたたましい救急車のサイレンが
昼下がりのドンドン商店街に鳴り響いた
商店街の中ほどにある
間口一間の小さな駄菓子屋の前で
サイレンは止まった
救急車は30分ほど
店の入り口を塞いでいた
近所の商店主や買い物客
そして夏休みの子供たちで
たちまち店の前は
野次馬大集合となった
やがてストレッチャーに横たわり
運び出されてきたのは
駄菓子屋
『十円店』のあるじ
おヨシばあちゃんだった
ばあちゃんを乗せた救急車が走り去り
野次馬もあちこちに散っていった
昭和の野次馬は
集合も早いが解散も早い
スマホで写真を
撮ったりしていないから
商店街の入口にある
斉藤塗装店の二階に
四人の五年生が集合した
当面の課題は夏休みの宿題だ
塗装店の一人息子ネコちゃんの部屋に
集まった四人だったが
おヨシばあちゃんのことが気になって
宿題どころではなかった
「ばあちゃん死んじゃうのかなぁ」
柴崎電器の息子
色白の美少年柴崎君が呟いた
「変なこと言わないでっ!」
渋谷酒店の娘
しぶ樽が泣きそうな顔で抗議した
お下げ髪を弾ませ
50メートルを8秒台で走る
スプリンターだ
「でも酸素マスクみたいなのつけてたよ」
そば屋『長寿庵』の息子
石川君が目撃していた
石川君は剛毛で
坊ちゃん刈りが天に向かって立っている
ついたあだ名はゴエモン
一年生の弟がいる
こっちはロクエモンと呼ばれていた
長寿庵の蕎麦は 盛りがいい
「なんでも店の奥で ばあちゃんが
ゲーゲーやってるのを
うちの母さんが気付いて
背中をさすって介抱しているうちに
ばあちゃんが呼吸困難に陥って
慌てて救急車を呼んだそうだ」
ネコちゃんが母親から聞いたことを
かいつまんで話した
結局
宿題は何も手つかずに解散となった
その夜 ネコちゃんの元に
一通の手紙が届いた
手紙にはこう書いてあった
『私は犯人を知っている』