もしも当たるなら/ぷつぷつと、泡
4.もしも当たるなら
「おめでとうございます!1等です!」
「え?」放課後の教室、自分の席で荷物を片付けていた時にのんこに言われた突然の言葉に私は固まる。
「って言われて、何が当たったら嬉しい?」
「……え、ごめん何がなに?」
「くじで1等が当たった時、それがなんだったら嬉しいかな〜って考えてたの」
「あぁ……びっくりしたよ急になにかと思った」
「へへ、ごめんごめん。思いついたら聞きたくなっちゃって」
「えーなんだろ1等ねぇ……良くあるのは旅行券とか?」
「ゆるみ旅行行きたいの?」
「いや別に今はいいかな」
「もー!わたしが聞いてるのは自分が当たったら嬉しいものだよ!」
「だってそんな急に言われても」
私は右手で頬杖をついてうーんと悩む。
「ちょっといいトースターかなぁ。朝においしいトースト食べたい」
「おぉ〜いいね!えーっとじゃあ…………4等で当たるなら何が嬉しい?」
「は?4等?」
これまた突飛な発言に私は混乱する。
「1等の次は4等ってなにその質問」
「いーから教えてよー!」
「……私になんか隠し事してない?」
「えっ、べ、別にぃ?なんにも?」
のんこは明らかに動揺している。
「嘘、絶対なんか隠してる。さっきの質問謎すぎるし。なんなの一体」
そう言ってじっと見つめると、のんこは数秒の間の後に仕方なさそうに口を開いた。
「ゆるみの誕生日に何あげようかなーって迷ってて、参考にしたかったの!」
「……誕生日」
そういえば私の誕生日まであと2週間ほどのタイミングだった。
「サプライズにしたかったからこっそり聞き出したかったのに」
「いやいや、聞き出し方下手か!もうちょっとなんかなかった?」そう言いつつ笑みが溢れる。
「だって思いつかなかったんだもん。もうサプライズは諦めるから4等考えて!ちょっといいトースターは予算てきにむりだから!」
「あ、だから4等……てかまだその質問の流れで続けるんだ……ふっ、ふふ」
考えようにも可笑しくて笑ってしまって、すぐには答えに辿り着けそうになかった。
「もう、ちゃんと考えてよ!わたしは真剣に聞いてるんだからね!」
「わかってるって。えーっとね……」
これ別にただ誕生日に欲しいもの答えればいいよね?とは思いつつも、本人的に試行錯誤したらしいのんこの気持ちが嬉しかったので、私は言わずに4等の景品を考えることにした。
5.ぷつぷつと、泡
7月の休日、昼過ぎ。
私とのんこは公園のベンチに座っていた。手にはさっき近くのスーパーで買った、ラムネの瓶。
「このあとどうするー?」というのんこの問いかけに私は、うーん……と意味のない言葉を小さく返す。
「……暇だねぇ」とのんこはのんびりとつぶやいた。
そう、暇なのだ。
特に目的もなくとりあえず待ち合わせ、手近なハンバーガー店でお昼を済ませた。そしてスーパーに行き今に至る。
私は手にしていた瓶を傾けてぐいっと一口ラムネを飲む。そして瓶の中をじーっと見ながら「炭酸の泡ってさぁ、なんか見ちゃう」とぽつりと言った。
「あー、わかる。こう、ぷつぷつ出てきてかわいいよね」
「かわいい……かどうかは、よくわかんないけど」
2人揃ってラムネの泡がうまれてくるのをしばらく眺める。
「……平和だねぇ」
「うん、平和だ」
のんこの言葉に同意して、今度は2人同時に瓶を傾けラムネを口にした。
「あっ、私本屋に用あったんだった」と私は思い出して言う。
「じゃあ行こ。私もマンガ買おうかな〜」とのんこは言ってから、残っていたラムネを飲み干す。
私も同じように飲み干して、2人立ち上がってゴミ箱に瓶を捨ててから公園を後にして本屋に向かう。
ミーンというセミの声に、ジリジリと照らしてくる太陽の熱。
夏はまだ、始まったばかりだ。