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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
30歳の春

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救えなかった

 画面が映し出していたのは、私の小説『Five Lives!』の最新話。これを読み終えて、彼女は線路に立ち入ったと推測される。


 震える手で、私は彼女にスマホを返した。


 彼女は救急搬送され、私と美奈ちゃんは警察から事情聴取された後、運転台に戻って列車の運転を再開した。


「ごめんね、イヤなことに巻き込んじゃったね」


 発車間際、運転席に座って美奈ちゃんがブレーキ試験を始めた美奈ちゃんが圧力計の画面を確認しつつ言った。


「ううん、美奈ちゃんが謝ることじゃないよ。犯人は私たちの見えないところにいて、実は見えるところにもたくさんいる」


 ほぼ間違いなく、普段視界に入る人間の多くがそうである。


「そうだね、見えるところにも、たくさんいるね」


 私も‘そちら側’に回らないように日頃の言動や行動を顧みなければ。


 それからは放心状態ながらも平静を装い車両所に荷物を届け、そこの更衣室で私服に着替えて直帰した。


 帰宅すると母がいた。そこでも平静を装い、洗顔、手洗い、うがいを済ませて自室に籠った。

 

 救えなかった。いつも応援してくれてた人ひとりさえ、私は救えなかった。


 座布団に座り、ベッドに顔をうずめ、すすり泣く。


 原稿を進めなければならないのに、もう私は執筆する意味を失っている。


 この世界は、優しい人ほど、優れた人ほど試練が多い、つらいことが多い。それが変えられない理だとは、理解している。行き場を見失い死を選ぶ人が多くいる、そんな世界。でも、そんな人たちが私の小説を読んで、少しでも、ううん、たっぷり元気になってくれたらいいなって、そんな想いで筆を走らせていた。


 何の自惚れだ。


 人を想いながら、ほんとうは自分を助けたかったりする。


 どっちも助けたいんだよ、ほんとうに。けど、自分を救えていないのに、ほかの人を救えるかと。それもまた真理だ。


 あの子、生きてくれるといいな。生きて、続きを読んでほしい。読んでくれなくても、生きてほしい。


 ひたすらにそう願うしか、いまの私にはできない。

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