対決! 綾峰時三郎
森崎夢叶、30歳。残業があり帰宅時間不確定。そんな中、毎日5千字を書くうえにまるたんやんまこと舞ちゃんにキャラクターデザインを送る日もあるなど多忙な日々を送っている。
土曜日の休日出勤。急ぎの事務仕事を早々に片付けた午前10時半、ただいま『絶対賞賛!』(ハコニワリリィ)を口ずさみながらブレーキユニットを解体中。
ブレーキユニットとは、減速や停止の際に車輪を押さえる制輪子の横に搭載されている踏面ブレーキ機能が集約された装置。車両の外側からは垂れ下がった尻尾が微かに見える。
理科室の耐火机くらいのステンレス台の上でゴロンゴロンと転がしながら、インパクトレンチやピン抜き棒等を用いて解体してゆく。2両分、計16個並んだそれを順繰りに。内蔵部分はグリースがたっぷり入っているため中身を取り出し洗浄機で洗ってから解体する。
管理者は事務所、わたしと同じく事務担当の同僚は構内を歩き回り管理者に無断で撮り鉄。
広大な敷地に、警備員2名を含む5名しかいない。周りに誰もいない静かな現場で定時までまったり、特に多忙な班の手伝い。月曜日は代休。
ウィーンッ、ウィーン、カタンコロン。インパクトと取り外された小さな六角ボルトの音が広い建屋の中央から響き渡る。窓は遠く、照明を点けていないのでまどろむ程度の明るさ。
鼻唄を歌いながらのんびりまったり手を動かし、約1時間かけて8個解体。飽きたので現場を離脱。石鹸で手をよく洗い、よく森本に絡まれる自販機コーナーで缶のコーンスープを飲む。開缶したらタブを斜めにして回転させながら飲む。毎回一粒たりとも残さない。
くるりくるり、たぷたぷたぷ。
乾いた空気に花粉が舞う中で慎重に飲み進めていると、右方向から軽やかにスキップをしながらこちらへ向かってくる眼鏡を掛けた小太りの男の姿を認めた。近付いてくると、男は何かを大声で歌っている。
飲みながら聴き耳を立てる。話題の名曲『ウィマーマ・サーガ』(しぐれうい)だ。
ビクッ、ズコッ、ベタンッ!
わたしの存在に気付いた男は驚き顔面からベタッと転倒。両手を地に着き土下座のポーズになった。
「歌ってた曲にピッタリのポーズだね」
「き、貴様、なぜ此処に居る。仕事はどうした」
「いやそれはこっちの台詞。仕事中に撮り鉄してるのバレてるから」
「ちょ、ちょっとくらい良いであろう」
「いや仕事完全に放り出して撮り鉄してたでしょ。これだからマニアは採用されにくいんだよ」
「が、しかし! 僕は採用されたモンね!」
「見た目は優秀なエンジニアって感じだからね」
「見た目だけじゃないモンね! 上手い! 給料安い! 仕事早いモンね!」
低身長小太り、クセの強いこの男、綾峰時三郎はわたしと同期入社。しかし専門学校卒のためわたしより2歳上。趣味は撮り鉄のほか、アニメや2次元関連コンテンツを❛嗜む程度❜だそう。彼の語尾からは平成もしくは昭和のアニメキャラクターを感じる。
綾峰といい森本といい、もう、ほんと、この会社、強烈キャラが多すぎる。
「それじゃあ、どっちが早くブレーキユニット1個を解体できるか勝負してみようか」
解体ならスピード勝負をしても品質保持に支障は出にくい。ただし急ぎ作業は破損しても自分で修繕できるものに限る。安全性は如何なる場合でも確保しなければならない。
「ククク、よりによってブレーキユニット。僕が過去に担当した業務! 良いであろう、貴様に勝ち目はないがその勝負、受けて立とうではないか!」
20分後。
「ぷぷぷ、ざあこ、ざあこ」
わたしの圧勝だった。その差10分。
「なっ、違うモンね! ハードロックナットがキツく締められ過ぎて緩まなかったんだモンね!」
「そういうときはインパクトレンチをゆっくり回すか手動のレンチで慎重に緩めるんだよ。スピードを意識するあまり平静を欠いたな」
後日。
『同僚である綾峰時三郎社員に対し「雑魚、雑魚」と執拗に罵ったとして、これが事実であるならば今後の言動に注意するよう警告する』
わたしは所長室に呼び出され、A4用紙の警告文を手渡された。大げさに瞬きをしながら真顔で受け取った。




