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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
設計

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頂からの景色

 麗らかなハイキング気分も束の間、まだ冷たい足元からじわりじわりと疲労感が滲んできた。それでも水とスポーツドリンクを併せて水分補給をすると、だいぶ楽になった。


 俯く私と夢叶ちゃん。足取り淡々と元気そうな美奈ちゃん。


 広大な田園風景を抜けると、歩道も車線もない、崖に挟まれアスファルトに亀裂の入った勾配を延々と上がってゆく。休むにも休めない状況。しかも見知らぬ土地で、ゴールまでの距離のイメージが掴めない。更にゴールしたら研修センターまで戻らなければならない。


「ちょっと休む? って言っても座るところないし勾配で足元傾いてるけど」


 ゴールまでの距離はわからない。あきらめてリターンすれば試用期間内なので解雇、または何らかのかたちでリベンジをさせられる。このミッションを成し遂げるには前へ進むしかない。けれどからだは疲弊している。夢叶ちゃんは眼が虚ろ。


 思案の結果、私たちは勾配の途中で立ったまま一休み。路面も両サイドの崖も、見渡す限りうっすらと雪が残っている。


「森崎さん大丈夫?」


 余裕の美奈ちゃんが心配そうに声をかけた。


 前傾姿勢で両膝を押さえる森崎さんのオーラが訴えている。栄養ドリンクかエナジードリンクを寄越せと。しかしそのようなものはない。


「はい……なんとか……」


 この場ではそう言うほかないのだろう。私たちが年上で気を遣っている面も大いにあると思う。


 ここは少し多めに休憩をすべきと判断した私は二人から少し離れ、そこかしこから顔を出しているふきのとうの観察を始めた。円を成す緻密な組織の一つ一つが命を形成し、あっさり刈り取られたそれは歯応えの良い天麩羅になる。


 しっとり冷気が頬を染め、ようやく辿り着いた無人の神社。賽銭箱の手前、参道の右脇に横長の折り畳み机と朱肉に大判のスタンプ。


 予め渡されたA4用紙に押印すると、花丸マークの外周に『よくできました』の文字。


「ふひ〜、終わった……」


 満身創痍の夢叶ちゃん。復路は大丈夫かな。


 研修センターを出発して2時間半。途中でほかのグループと何組も擦れ違った。


 山中にある神社は杉の木に囲まれていて、平地に在っても風景は変わらない。


 登りつめた頂が、必ずしも絶景とは限らない。


 そういうことも、きっとあるのでしょう。


 このとき私は、明るいとも暗いとも限らない未来を思い描き、一つ心構えができた。


 ゲームでいう『経験値が上がった』とは、こういうことかと実感したと、後に夢叶ちゃんは語った。私はそれに、妙に納得した。

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