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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
設計

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点検と手入れ

 茅ヶ崎で舞ちゃんと飲んでから数日後、専業作家を夢見るわたしは青い長方形の古い電気機関車を手入れしていた。客車や貨車を牽引する車両だが、最近は活躍の場が少ない。この車は、かつてブルートレインと呼ばれた寝台列車や、伊豆方面の特急列車も牽引していた。


 外の光が適度に射し込み、ホコリがきらめく離れ小島の倉の中で単独作業。基本的に誰かといるのが苦手だから、こういう作業は好き。


「あなたはこの先どれくらい走るんだろうねぇ、もう疲れたかい?」


 機関車の中央部横でしゃがみ込み、視界は黒く塗装された足回り。ビニル手袋を装着し、汎用のステンレスバケツにたっぷり入れたオイルを厚手の雑巾に染み込ませ、3つの台車の左右計6箇所に丁寧に満遍なく塗ってゆく。すると足回りが黒光りした、写真映えする機関車の完成する。


 舞ちゃんや美奈ちゃんが運転を担当したとき、わたしは別の職場へ部品を届けるためにこの機関車に便乗した。前面には貫通扉があり、春や秋はこれを開けて風通しを良くし、ゴツゴツしたハンドルや計器類が密集する運転台の椅子に座って、ぼんやり窓の外を眺めたりする。


 鎌倉総合車両所に出入りする機関車は旧型のみで、新しい機関車は出入りしていない。旧型機関車は徐々に数を減らしており、もうじき狭苦しくてゴツい運転台に座ってサボる時間も終わりを告げるだろう。


 ペタペタペタ、ぬりぬりぬり。オイルを塗り進めるごとに付着した汚れが落ちてツヤが出てくる。これだけだとベタつくので、塗ったら別の雑巾で乾拭きをしながら進んでゆく。しゃがんだり中腰になったりの繰り返しで、地味に身体に負荷がかかる。


 ミスや手抜きをしても機能上は差し支えない作業。でもこういうところを疎かにすると、徐々に綻びが生まれ、やがて方方ほうぼうへ伝播してゆく。それはやがて、安全を脅かす事象につながる。


 そんな脅迫観念はなくても、わたしは丁寧な仕事が好き。綺麗かつ素早く仕上げる平社員、森崎夢叶。昇進試験は落ちまくり。


「よーし、綺麗になったね。外に出たらたくさん撮ってもらうんだよ」


 なぜかこういう目立ちにくい変化に、日々の記録が大事だなんだと言っている撮り鉄たちはなかなか気付かない。気付いてもポストに書き込まないのだろうか。機関車も電車も、それ以外の車両も、日々綺麗になったり汚くなったりしている。しかも手入れをする人によって出来栄えがあからさまに違ったりもする。


 手入れといえば、小説も手入れが必要になるときがある。『Five Lives!』はそれなりに書き進めてきたので、そろそろ一旦立ち止まって誤字脱字等を点検しようと思う。


 と、こんな調子で会社にいるときはやる気満々なのに、帰ったら……。


「ふひー、疲れたー、やる気が起きん」


 帰宅して、お風呂に入って自室に籠もりポチをずりずり。


 定時退社、19時に帰宅したのに、小説の点検に取り掛かったのは22時だった。

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