フランジ
「私さ、列車ってよく脱線しないなって思うんだよね。フランジ30ミリ弱しかないのに」
自分は頻繁に脱線して執筆活動が捗らない作家、もりさきゆめか、30歳。フランジが高くなって安定感が出てきそうなお年頃。
舞ちゃんはいつの間にかビールを飲み干し、手元の酒は梅酒ロックに変わっていた。わたしはまだジョッキに半分残っている。
フランジとは、車輪がレールに噛み合っている部分。一般型な鉄道車両の車輪のレールと接触する面は自動車のタイヤのように平面ではなく、緩やかな弧、または錐になっていて、突き出た部分(フランジ)がレールと噛み合って走行している。大きな振動や急なカーブではフランジとレールが接触して、それらが傷んだり速度を超過していなければ脱線しないように設計されている。その高さが30ミリ弱。
「ナダルの式、脱線係数、関数の世界だね」
この辺りは説明すると難しいので気になったらお調べくださいませ。
「そうそう、ド理系の世界。感覚的には高さ3メートル以上ある巨体を3センチのフランジで支えるというのがなんとも恐ろしい。運転台からレールを見下ろすと2次元かってくらい平面っぽくて、この上を新幹線なら3百キロ以上で走るのかって思うと、理屈は理解していても怖い」
実際は力のモーメントが線路の下へ向かって働くので、綺麗に整備された日本の線路や鉄道車両はレールとフランジが接触せず水平を保って走行する区間も多い。特に直線ではほとんど接触しない。しかしポイントと呼ばれる、線路が分岐したり合流する部分ではレールにカント(傾き)がないため力が下へ逃げず、横圧をもろに受けるので車輪やレールが摩耗しやすい。
こんな風に会社での仕事の話に花を咲かせ、創作者同士の飲み会という意味では脱線した。




