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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
設計

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オグラさんちはどこですか?

 貨物を引くとは、貨物列車を運転するという意味。貨物列車の多くは機関車が貨車を牽引する方式で運転されている。客車列車の場合にも同じく『引く』と言う場合がある。


 舞ちゃんが運転を担当する車両は一般型、特急型の旅客電車と、客貨車牽引用の電気機関車およびその他電気式の事業用車。全国ネットワークの日本総合鉄道には電車以外にも多種多様な鉄道車両が在籍している。


「110キロくらいで☓☓トンネルに進入した直後、線路脇に座り込んでいるおばあちゃんが見えたから、列車を止めて真っ暗なトンネルの中を走って確認しに行ったの」


 業界人同士なので要点のみを語っているけれど、列車を緊急停止させた舞ちゃんは、付近の列車に危険を知らせる信号を発報はっぽうして指令室に通告し、列車を降りておばあちゃんが座り込んでいた地点まで確認しに行ったという。速度からして、舞ちゃんは暗いトンネル内を一人で5百メートルほど走ったと思われる。


「お、おお、これは、もしや……」


 線路脇に座り込んでいたのでおばあちゃんが身動きしなければ人身事故に至った可能性は低い。しかしトンネル内に人が座り込んでいるというシチュエーションは、何か背筋の凍るものがある。


「色んな気配を感じながらやっとそこに辿り着いたら、なんとそこには……」


 声のトーンを抑え、伏し目がちに言う。


 トンネル内での目撃情報はよく聞く。しかしいかにもなので、列車を止めて確認しに行く乗務員は少ないという。本来、線路に人が立ち入っていたら列車を止めてその地点や周辺を確認しなければならない。しかしその義務を敢えて怠るに足りうる理由が、そこにはある……。


「おばあちゃんが」


「おばあちゃんが……?」


「いたの……変わらず、座り込んで……」


「いたんかい!」


 思わず大声を出してしまった。


「いたの? そういうのって、再確認したときにはもう姿が見えなくなってるんじゃないの?」


「私も、できればいないでほしかった。いつもみたいに、そうあってほしかった。それでね、恐る恐る、恐怖でどもりながらおばあちゃんに話しかけたら……」


「話しかけたら……?」


「オグラさんちは、どこですか? って、訊かれたの」


「お、オグラさん……」


「うん、オグラさん」


「それはつまり」


「うん、差し伸べて握った手は温かかったから、すぐに警察と消防を呼んで連れて行ってもらったよ」


「搬送中、その姿がなくなっていたとかはなく?」


「その先は聞いてないけど、恐らくちゃんと病院に運ばれて事情聴取されたと思う。オグラさんちに行きたいおばあちゃんが道に迷ってトンネルに入り込んだ、ある意味恐いお話」


「それなら幽霊のほうがマシだよお。だってトンネル内なんかどうせそう思って無視しちゃうじゃん」


 固定観念と先入観で無視して通過して、触車していたら轢き逃げになっていた可能性がある事案。なんて恐ろしい。乗務員はある意味水物商売である。

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