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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
設計

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知性的欲求不満

「ふひ〜おつかれさまでした〜」


「おつかれさま〜」


 座敷の小上がり、向かい合って中ジョッキを軽くぶつけ合い、黄金の液を流し込む。


 きょうは横浜在住の舞ちゃんが茅ヶ崎まで来てくれたので、駅からバスに乗って浜見平団地の近くにある地魚が評判の店で女子会をすることにした。店内は家族連れや仲間内と盛り上がる人たちでワイワイガヤガヤ。


 わたしが壁側に座り、テーブルにはシーザーサラダと鮪や鯛などの刺身の盛り合わせが置かれている。山葵わさびも妻も残さずいただこう。


「最近どう?」


 ジョッキ片手に母性を孕んだ笑みを浮かべる舞ちゃん。ああ、わたしもこんな色気が欲しい。舞ちゃんの子どもになりたい。


「偉大なるまるたんやんま様のメンツもあるので筆を懸命に走らせているところではありますが、会社に割く8時間半と通勤時間はどうしても短縮できず、また、価値観や衛生観念が合わない人が多くて精神的にしんどくなり、帰るころにはぐったり、執筆は東海道上りの最終が小田原を出るころに始めるという悪循環を辿っております」


「ああ、ガサツな人多いもんね、うちの会社」


「ギャンブル、野球観戦が生き甲斐で、ゴミの分別もろくにしない人々」


「知性が欲しいよね、せめてもうちょっとだけでも」


 は〜あ。二人揃って溜め息をつき、聖めの酒を流し込む。


 入社のハードルはそれなりに高いであろう鉄道会社。でも思い返せば入社試験の学科試験に備えて勉強した時間って、どれくらいだっけ。


 いまでも思い出す入社試験試験での面接官の一言「キミ、数学の点数すごく悪いね」。ということはつまり、社員のほとんどはわたしより数学ができるはず。なのにどうして、そんなにだらしなくて知性がないの。そういうことを常々思う。


「思いの丈をぶつけたいときって、舞ちゃんにはない? 叙情的なこととか、哲学的なこととか」


 淀んだ感情が溢れ出た。


「あるある! 私もね、よく孤独感に耽るの。そういうお話ができる人って、夢叶ちゃんと、美奈ちゃんと、あとは、うーん、片手で足りるほどしかいなくて。それに、会話に夢中になると夜更かしして、ただでさえあまり寝る時間がないのにもっと睡眠不足になっちゃうから、切ないなぁ」


 あるある! と強く共感を示し、徐々にテンポを下げて、最後の切ないなぁ、で視線を下に落とした舞ちゃん。


 舞ちゃんの喋り方はときどき芝居がかって見えるけど、どうもこれは心からのリアクションらしい。さすが舞ちゃん。同じ彼氏ナシでも何人もの告白を断っているのと、特に言い寄られることもなく1回も告白されない童顔三十路とは質が違う。


「うんうん。私も長話してると寝る時間が削られるし、叙情的でも哲学的でなくても、ただ笑えるだけの大した中味のないギャグでも、シンプルに創作が好きだから、執筆時間を取りたくて、結局のところ、誰かとお話しをする時間はなかなか取れない。けど、こうしてときどき舞ちゃんとお話しするの、私は楽しいなぁ。深いことも、他愛ないことも」


「ふふ、ありがとう。私も夢叶ちゃんとお話しするの、楽しいよ」


「えへへへへへ~、なんだか照れちゃうなぁ」


 酒が進む、肴がうまい!


「舞ちゃんは、最近どう?」


 今度はわたしが質問。


「わたしは特に変わりはないけど……この前貨物を引いてるときね……」


 舞ちゃんはにこにこと語り始めた。

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