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それぞれの信頼関係

「こんばんはー! 空いているテーブル席へどうぞー! すき鍋おすすめしてまーす! いかがでしょうかー」


「いかがでしょうかー」


 厨房から店員さんの声が響く。いまは二人で店を回しているようだ。


 わたしと猫島くんが入ったのはオレンジの看板が目印の牛丼チェーン店。いつもは一人で入店するのでカウンターだけれど、きょうは二人なのでテーブル席に座るよう店員さんに促された。


 両者おすすめ通りすき鍋を、わたしは加えてジョッキビールを注文。きょうはこれを楽しみに生きた。調理に時間のかかるメニューはおすすめしてくれると頼みやすい。対に、おすすめ以外のものを食べたいときは胸につかえるものがある。


「あー、うまい」


 仕事上がりのビールはうまい。猫島くんはあまり飲酒しないそうで、いまは緑茶を吸っている。


 猫島くんは特に言葉を発しないので、わたしが話を振る。


「猫島くんさ、もしわたしがお金貸してって言ったらどうする?」


「ごめん、生憎あまり豊かなほうではなくて」


「あ、いや、こっちこそごめん。借りる気はないよ。えと、あのね、わたしが高校の同級生にお金を貸してほしいって頼まれたけど貸さなくて、職場の先輩は自称人情の男で、友だちに何度も貸してるみたいなんだけど、私って薄情なのかなって」


「いや、別に薄情ってことはないと思うけど……。貸す貸さないは人それぞれだからね。信頼関係を揺るがすリスクの高い行為だし、そもそも僕みたいに貸す余裕もなければ情はあっても貸せないし」


「それぞれか。そっか。金銭の貸借たいしゃくが発生したらもう友だちじゃないと思ってたから」


「世間一般では大体そう。銀行でもサラ金でもヤミ金でも、借りるところはあるんだから」


「うん、まあ、ね」


「でも利子と返済期限があるし、返さないと取り立てられるし、だからまず、心のどこかでナメている人にカネを請う」


「ううっ、わかってはいるけど、うん。わたしの人生ナメられっぱなしだからね」


「……。まあ、人生に心配事は尽きないけど、人生その時どきで自分の近くにいるべき人は近くにいるし、そうじゃない人は離れてくから、あまり気負わずにいればいいんじゃない?」


「うん、そっか、ありがとう。なんか気が軽くなった」


 頬が緩んで、自然に目尻が垂れていた。

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