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聞き役の夢叶

「ほら、飲めや」


「どうも、いただきます」


 13時10分、ムシャクシャした森本に捕まったわたしは午前中にコーンスープを飲んでいた自販機前であたたか〜い缶コーヒーを渡された。用件は先ほどの金貸しについて。 


 わたしたちの斜め後ろでジャッキアップされている『普通 島田』の行先表示を出していた車両は現在『普通 長野原草津口』を表示している。静岡県から群馬県の山奥へ。


「そもそもなんでお金貸しちゃったんですか」


「そりゃお前、困ってるヤツが救いを求めてきたら放っておけないだろ」


 眉間に皺を寄せ、血眼で自らの唇を舐め回す森本。


「人情深いですね」


「おうよ、俺は義理人情の男だ」


 森本はメンチを切りながら言った。わたしを睨んだところで何も起こらないけれど、相手のところへ行って物理的にメンチを切りに行っても良いと思う。借金野郎の家の前でメンチ切ってきた!! って。


 そんなことを考えると同時に、同級生にお金を貸さなかった自分が薄情者のように感じられてきた。


「その人とはどんな間柄なんです?」


「高校時代の同級生だ。藤沢に住んでてな、あるだろ? 藤沢と辻堂の駅前にでっかいパチンコ屋。あそこに入り浸って毎月給料溶かして、生活費が足りなくなると誰かに借りるんだ」


 クズだ。


「それで、返してくれない、と」


「そうだよくわかったな。お前頭いいな」


「はぁ、どうも」


 バカにしてる?


「だから催促の電話をした。問題はそこからだ。ソイツは他人にカネを借りるのが、または払わせるのが当然だと思ってる。自分は何も与えてないくせにだ。俺はアイツから缶コーヒー1本も奢ってもらってねぇ。それで生活費が足りないとか、親が死んだから香典くれとか、カネが必要になったら連絡してくる。だから腹が立ってんだ」


「縁切ればいいのに」


「俺もそう思う。お前が言うようにそれが正解なんだと思う。けどな、俺はな、ソイツの心根が善人だっていう可能性を捨て切れてねえんだ。クズ一人捨てられねえ男だから部屋ん中も散らかってるんだろうけどな」


 部屋散らかってる情報は要らないけど性善説を捨て切れない気持ちはわからないでもない。


 ひたすら聞き役に徹したわたしは貴重な勤務時間を1時間取られたが、培ったノウハウで効率的に仕事を進め、なんとか定時の17時5分に上がれた。

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