解体
楽しかった福島旅行から一週間。乾いた潮風が吹く茅ヶ崎の自宅と鎌倉の職場を往復しつつ執筆を進める日々が戻っていた。
「うう、やる気が起きん」
朝9時の鎌倉総合車両所。事務所棟の物陰で独り言を漏らし、インフルエンザで欠員が出た班のヘルプに入った。
先日は車体と足回りを引き離す作業を手伝い、今回はその次の工程、台車解体。
やる気はないけど手抜きはしない。
解体作業だからミスをしてもお客さまや公衆の命に関わることはないけど、自分や周りの人が怪我をしたり部品が壊れたりする。
なので粛々と、淡々と、マニュアル通り、手順通りに作業する。
車体から外された台車はリフトに乗って、まず洗浄装置の中に自動で入場。特殊な洗浄液を噴射して、鉄粉や泥などの汚れを全自動で洗浄する。茶色い汚れが落ち、台車が元々のグレーになった。しかし組立時にあった艶はなくなっている。昔は布に灯油を染み込ませ、手で汚れを拭き取り、塗装は防護服を着た人が塗装室に入り、塗料をノズルで吹き付けてたり、刷毛で塗ったりしていたらしい。
この先は人の手が加わる作業。わたしを含む6人(50代1名、40代2名、30代2名、20代1名、わたし以外は全員男)で行う。
洗浄が終わったらボルト頭の穴へ8の字型に通された針金をペンチで切断したり引っ張り抜いたりした後、インパクトレンチでボルトを外し、台車枠と輪軸(車輪、車軸)を繋ぐ軸箱支持装置を取り外し、更に車輪の側にあるブレーキユニット、モーターがある車両はそれも取り外したりなどなど面倒な作業。
車両の工事はどれも面倒だけど。
一つのものを完成させるって、大変だ。




