書くときは書く、休むときは休む
「うおおおっ、寒いっ」
「東北に来たって感じがする」
「北極に近づいた感じがするね」
やまびこ号を降りたら天然の冷凍庫。寒いけど東京より空気がしっとり。
茅ケ崎駅を出て約3時間、しんしんと華が舞う福島駅に到着。ほかの降車客はちらほらいる程度。
まもなく『栄冠は君に輝く』の高らかな発車メロディーが発車案内放送とともに流れ始めた。いいねぇ、福島に来たって感じ。
福島県にはこれまでも何度か来ている。県庁所在地のここ、福島市のほか、新幹線で一つ東京寄りの郡山、奥地の会津、海辺のいわきなど。
新幹線ホームから広いコンコースを抜け、駅ビルの中を通り抜け、券売機で福島交通の切符を買って有人改札を通り飯坂線に乗り換える。
すごい久しぶりに買った切符に旅情を感じた。福島交通ではわたしたちの持っているICカードは非対応だから切符を買っただけだけど、キャッシュレス乗車が当たり前の現代において、それを手にしたときのワクワク感が甦った。
わたしが未就学だったころは茅ケ崎駅も有人改札で、券売機のまるいボタンを押して出てきた切符を親に手渡されたときは、例え行き先が隣の駅でも心が躍った。
段差のないホームに入ると右に飲料自販機が並び、左に阿武隈急行、右に飯坂線がある。
地元住民に混じって10分ほど待っていると、何度もブレーキを緩解させながら、慎重に、ゆるりゆるりと電車が到着。かつて首都圏の民鉄で活躍していたステンレス製のロングシート車。電車の動きは緩い反面、車掌は首都圏並みかそれ以上にきびきび動いていた。
ああ、わたしもきびきび小説書かないと、〆切に間に合わなくなる……。
旅を思いっきり楽しもうとなるべく考えないようにはしていたものの、東海道線や新幹線でも気になっていた。
書くときは書く、休むときは休む。そのメリハリが大事とはわかっているけれど、それが器用にできない。
わたしの愛するキャラクターたちを、読者さまに最大限愛してもらえるよう、良い作品をつくってゆきたい。
そもそもこの旅だって何か小説のヒントを拾えればと、インプット目当てでしている節もある。
もちろん、温泉に浸かってリフレッシュもしたい。
とことこ駆ける飯坂電車に揺られ、終点の飯坂温泉駅に到着。改札口前、頭上の吊り看板に勝ち気な女の子のイラストが。飯坂温泉が猛プッシュしているご当地キャラクターだ。
わたしが飯坂温泉を訪れたのは二度目。前回は一人旅。会社に入ってから、学生時代は滅多にしなかった遠出をときどきするようになった。
切符を駅員さんに手渡して階段を上がり、駅舎の外に出た。
「旅館のチェックインは15時からだから、それまでどうしようか」
「とりあえずそこに観光案内所があるから、この街のこと訊いてみようよ」
舞ちゃんと美奈ちゃんが言った。
十字路を渡って対面に観光案内所があり、そこでマップをもらった。案内所の中には件の勝ち気な女の子のキャラクターグッズがたくさん展示されている。建物の外にはそのラッピング自販機も。実はマップがなくてもこの街のことは概ね覚えているけれど、展示が見たくて二人には黙っていた。
対岸の縁に古いコンクリートの建物が並ぶ摺上川を眼下に、アスファルトを吹き上がる雪とともに緩やかな坂を上る。
かの松尾芭蕉も訪れたこの飯坂温泉は、駅付近に旅館や入浴施設が集中するコンパクトな温泉街。単独宿泊可能な旅館も多くあり、ぼっちにやさしい温泉地でもある。
ぼっちにやさしい温泉地である。
大事なので二度。
名物の円盤餃子や飯坂ラーメンを出す食堂や、本格的なコーヒーを楽しめるカフェもある。
箱根や伊豆など、賑わう近所の温泉地も良いけれど、人通りが少なく落ち着いた飯坂温泉の雰囲気も、わたしは好き。
さーて、羽を伸ばすぞー、良き作品を生み出すために。負けるな夢叶、ここに在り。




