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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
素地

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イラストレーター決定!

 雲雀沢ひばりさわさんにメールを送ると、すぐに返事が来た。相変わらず仕事が早い。しかしその内容は、まるたんやんまさんに依頼を受けてもらえるか否かの確認を取るのでしばらく待ってほしいとのことだった。


 ドキドキしながら待つこと半日、雲雀沢さんから再びメールが入った。ベランダから見る夕陽は南西の伊豆半島に沈もうとしていた。みっちり詰まった建物が邪魔してよく見えないけど、季節ごとの陽が沈む方角くらいはわかる。


『まるたんやんまさん、ぜひお引き受けしたいとのことでした! 表紙イラストと本文中のどの場面に挿絵をつけるか、相談していきましょう!』


 ほおっ! まるたんやんまさんからオッケーきた!  早くも絵が出来上がるのが楽しみでたまらない!


 話は後日進めるというので、私は『Five Lives!』の続きを執筆。書籍化の発表はまだだけど、続きを待ってくれている数人の読者に向けて物語を綴る。




 いくらか書いて寝て、仕事始めの日を迎えた。現実は、忘れたころにやってくる。忘れなくてもやってくる。




「あぁ、帰りたい……」


 夜明け前の空は瑠璃色な5時半。目覚めたわたしの第一声。


 正月休みが終わり、きょうからまた出社。


 ねぇ、休み‘明け’なんて言葉を発したの、誰? 明けじゃないでしょ、メンタルがどっぷり海底に沈む暗黒の青函せいかんトンネルの入り口でしょ。かつて吾妻あがつま線にあった樽沢たるさわトンネルくらいまでなら我慢できるけど、そうはいかないのが世の常。


 悶々としながらのっそり起き上がり、洗面所で歯磨きと洗顔。部屋に戻って軽くメイクをして、昨晩つくって冷蔵庫に入れておいた梅、昆布のおにぎりをインスタントしじみ汁、緑茶と共にいただく。朝茶はその日の難逃れ。


 なお、朝はサンドイッチで優雅に、とかやってると、わたしの仕事は腹が持たん。


「ふは~」


 味噌汁をすすって一息。少し薄めに淹れた緑茶も甘味が滲んで美味しい。


 そんないつもの朝を過ごし、そろそろ陽が昇る6時45分に家を出た。母はまだ眠りの中。


 バスに乗って駅に到着。一段一人乗りの小さなエスカレーターに乗ってコンコースに上がり、人混みに紛れてパスを改札機にタッチ。


 ホームに降り立ち、電車を待つ。特急ホームを挟んだ向こう側の相模線ホームの端には、烏帽子岩と腕木式信号機の模造品が設置されている。


 まもなく視界の右側から相模線の電車が到着すると、降りた人々が階段やエスカレーターを駆け上がり、こちらの東海道線ホームに押し寄せてきた。まるで何かに追われているよう。時間という見えない敵に追われているんだ。東海道線上りは3分間隔で来るけど、この先での乗り換えの都合や単純なせっかち、1分でも早く職場や学校に着いて仕事、勉学、部活などに取り組みたいなど事情は様々。でも駆け込み乗車は遅延や人身事故だけじゃなくて、ドア故障の原因にもなるから検修員の立場としてもやめてほしい。


 駆け込み乗車は業務妨害だし、不正乗車は万引きと同じだけど、鉄道になると何故か気軽に犯罪に及ぶ人が多い。


 悶々とした心持ちで上野うえの行きの電車に乗って4番ドア付近の3席並んだ海側の車端部に立ち、黒い抗菌釣り手を掴み虚ろな目で朝焼けに染まる外を見る。わたしの前に座っているオッサンは有線イヤホンを装着してお笑い動画を見ている。


 この電車に乗っている人々の多くはきっといま憂鬱だろう。


 ふと荷棚の左、壁を見上げて車両番号を確認。


 あ、これ、この前わたしが削った車輪が組み込まれた車両だ。


 寸分の狂いなく綺麗に削ったなぁ。三角か四角、いや、せめて六角形に削っておけば車両は走れなくなって、いま乗っている人たちは学校や職場に行かなくて済んだのかな。ごめんよぉ、わたしが綺麗に削ったばかりに……。

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