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ー狐様と守人ー  作者: 冨士田
3/4

ー視える者ー

稲荷神社のすぐ近くにコンビニエンスストアがり、そこが幼稚園児達の送迎を担うスクールバスの停留場所となっていた。

時間になれば5〜6人の親達が子ども達を見送り、再び時間になれば子ども達を出迎える為に親達が集まる。

その親達の中に1人だけ他の親達より遥かに歳を重ねた老婆がいた。


『せんせい、さようなら!!』


スクールバスから降りた園児達がいつもと同じように声をそろえて別れの挨拶し、親のもとへと小走りに向かい楽しそうに言葉を交えながら家路についていく。


「おおばばさま、ただいま」


「おかえり、あーちゃん」


稲荷神社は坂を上りきった所にあり、その真向かいにはマンションが建っている。

そこへと帰る親子が数人、残りの数人が長いこの坂を下っていく。

するとまるで大きな階段を連想させるようなマンションが建っており、そこで"おおばばさま"と"あーちゃん"以外の親子が帰って行く。

2人きりとなった老婆と幼女は、楽しげに笑いながら坂を下り、下りきった所で足を止めた。


「ついたー!!」


坂の終わり或いは始まり。

そこは車6台は停められそうな駐車場、そこから長い階段が上へと伸び、駐車場の隣にはこじんまりとした一軒家が建っている。

駐車場の大きな看板には「お泊り処 冨士」と書いてある。


「じゃあね、おおばばさま。きがえたら、おうちいくね」


「はいはい、階段で転ばないように気をつけるんだよ」


普段はそこで幼女が階段を駆け上り、老婆は一軒家へと帰って行き幼女が遊びにくるのを待っている。


「ねぇ、おおばばさま」


今日もそんないつものはずだった。


「なんだい?」


「おいなりさまの、かみがながいひとと、ちいさいひとはだぁれ?」


「えっ…」


老婆は自らの声があまりにも間が抜けているなと他人事のように感じた。


「おおばばさまの、おともだち?」


老婆の頭の中にはいくつもの"何故?"が浮かんだ。

何故、気がついた?

何故、視えている?

何故、自分は恐れている?

何故、自分は喜んでいる?


「あーちゃん、今日は大婆も一緒に行くね」


「うん」


老婆と幼女は手を繋いで一緒に階段を上る。

老婆の心臓は早鐘のような鼓動を打つ。

30段程の階段を上りきると駐車場にあった看板よりもこじんまりとした看板に「お泊り処 冨士」と書いてある。


「ただいまー!!」


広い玄関の扉を開けて幼女が元気な声で帰りを告げる。

パタパタと聞こえる足音。


「お帰りなさい文音。あら、お婆様、どうかしたのですか?」


そこには着物を着た女性が…、なんて事はない。

エプロンこそしてはいるが服装はいたって普通。

"お泊り処 冨士"は家族経営をしている宿屋、今は夕食作りの時間、あまり長くは話せない。


「文乃さん、落ち着いて聞いてね」


大婆は自分にもそう言い聞かせるように呼吸を整えた。


「あーちゃんは、視えてる」


「えっ…」


文音の母、文乃はぽかんと口が開き、その開いた口を両手で隠すようにおおった。

大婆は大きく頷いた。


「…守人になるのでしょうか?」


それは不安。

それは畏怖。

良くも悪くも"視える"者は少なくなり、そして"守人"も少なくなっている。


「それはこれからあーちゃんが決める事よ」



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