ヒドイン登場
ヒロインはヒドインでした。
そして学院の入学式当日になった。
前日から寮に入ったアリアとカサンドラは2人並んで式場へ向かおうとした時、1人の女子生徒がオドオドしながら挨拶に来た。
ピンク色の髪にピンク色の瞳。
可愛らしい容姿が怯えています、と言いたげに青褪め、プルプルと震えている。
「カサンドラ様、おはよう御座います」
「何処のどなたか知りませんが、わたくしの名前を呼ぶのはおやめなさい。無礼よ」
「そんな、ご挨拶しただけなのに」
まるでカサンドラに苛められてます、とでも言いたいのだろうか。
ちらほら居る周りの生徒達は、呆れた様に彼女を見ていた。
「挨拶は低位の者が先にするものですが、知り合いでも無い者が家名でなく名前で呼ぶのは無礼だと習いませんでしたの?」
カサンドラが説明してもピンクの女子生徒は震えるだけで、ろくに話を聞こうとしない。
「やれやれ、朝から揉め事か?最近は礼儀を弁えないものが多いな」
背後から護衛騎士を連れたデニスロードとジークハルトが現れて、盛大なため息を漏らす。
「デニス様ぁ」
またもピンクの女子生徒が殿下の名前を呼び、擦り寄っていった。
アリアは彼女が何がしたいのかわからないと首を傾げるが、ジークハルトは軽蔑した目でピンクの女子生徒を見る。
「王太子殿下の御名前を略して呼ぶなど、王家を侮辱している様なもの。恥を知りなさい」
「ええ、だってそう呼んで良いって言ってくれたもの」
彼女の言葉に、ジークハルトがチラッと横を見る。
「いいご趣味ですね、殿下」
「言ってないよ。ジークハルトも知ってて言うなよ」
デニスロードが呆れた様な声で返事をし、カサンドラに微笑み掛けた。
「入学式がそろそろ始まるのに、新入生が居なければ教師達が困るだろ。それに、新入生代表の挨拶をアリア嬢がするのだから、会場に戻りなさい」
ようは、こんなのは放っておけ、と言っている。
「えっ、新入生代表の挨拶はアタシがするんでしょ?ゲームではそうだったもん」
うん、これはアホだ。救いようが無いほどのアホだ。と、共通認識が生まれた。
「カサンドラ、アリア嬢。もう行きなさい。私達もすぐに行くから」
デニスロードが王子様スマイルでカサンドラ達に微笑み掛け、そっと手を振った。
カサンドラとアリアも美しいカーテシーをさらりとして、入学式の会場へ向かった。
「こいつ、入学式で騒ぎを起こしそうだから隔離しておけ」
護衛騎士に命令をすると、デニスロードはジークハルトを連れ、さっさと会場に足を向けた。
現実をちゃんと見ましょうね。




