屋上イベント①
屋上イベントです。
「グフ、グフ。やっと屋上イベントね」
夏休みを挟み、前回のイベントから随分時間が空き、季節は秋になっていた。
セレナにとって夏休みは退屈なものでしか無かった。
友人と呼べるクラスメイトなど居ない彼女を自宅や別荘に誘う者は皆無で、実家の狭い部屋でただ無意味な時間を過ごしていた。
ニヤニヤとカサンドラからの手紙をポケットに入れて、セレナは屋上へ向かった。
屋上は遮るものの無い開かれた空間で、風が心地よくて生徒達の憩いの場でもあったが、今日は誰も居ない。
いや、手摺りの側に誰かが立っていた。
「早く来すぎたのかな?」
カサンドラが居ない事に首を傾げたが、手摺りにも垂れていた、淡いブラウンの髪をした生徒がセレナの方を向いた。
「アンタは」
セレナにとっては逆ハーを邪魔する、邪魔でしか無い存在。
アリアがキッと目に力を込め、スタスタと歩み寄って来た。
「セレナ・コール男爵令嬢ね」
「そうよ。何?アタシはカサンドラと話があるんだから、とっとと出ていきなさいよ」
「カレドラス侯爵令嬢は、いらっしゃいません」
小柄なくせして背筋がピンと伸び、可憐な容姿を引き立たせる青紫の瞳に腹が立った。
自分に溺れる筈だったキャラ達は皆、彼女を大切にしている。
「アンタが余計な事するから、デニス達がアタシの魅力に……」
「魅了魔法なんてまやかしです。1人だけでも罪深いのに、複数人に掛けるなんて何様です」
「何様ですって。アタシはこのゲームの世界のヒロインで、特別なの。イケメン達に愛される設定なの。アンタみたいなモブ、お呼びじゃないってんだよ」
ピンクの目が充血してどす黒く見える。
ヒロインがどんどんヒドインになって行く。




